2013年8月9日金曜日

ヘルスリテラシー 定義

ヘルスリテラシーの定義に関するメモです。
Health literacy and public health: A systematic review and integration of definitions and models[1]



背景
ヘルスリテラシーという言葉は1970年代に使われ(Simonds, 1974)、公衆衛生や保健医療の場における重要性が増している。ヘルスリテラシーは、現代社会で人々が持つ健康に対する複雑な要求を満たすための能力である(Kickbusch & Magg, 2008)

以前は、ヘルスリテラシーは医療の場で言葉や数字を扱う力として強調されたが、近年になってその概念は健康情報を読むことや活用、健康の専門家に対するコミュニケーションニーズ、健康教育の理解のように、より複雑で相互につながりのある能力としてのヘルスリテラシーとして理解されるまで広がっている。

IOMのレポートではアメリカの成人のおよそ半分は健康情報を活用することに問題がありうるとされた。(IOM, 2004)。このことは“ヘルスリテラシーエピデミック”と言われている(Davis, 2004)

ヘルスリテラシーの研究や政策措置の増大に伴って、その概念に対する共通した定義が無いことが明らかになっている。
そのため、様々な国による研究から出たヘルスリテラシーに関する発見を比較することが非常に難しい。

そこでこの研究では定義とモデルについてレビューし、統合的な定義とヘルスリテラシーの最も包括的でエビデンスベースドの要因を捉えた概念モデルを開発する。


方法
・2009年秋と2010年春に2つの研究チームによるMedline, Pubmed, Web of scienceでのシステマティックレビュー
・リサーチクエスチョン
(1)どのようにヘルスリテラシーが定義されているか
(2)どのようにヘルスリテラシーが概念化できるか


結果
・ヘルスリテラシーの定義
ヘルスリテラシーの定義に特化して焦点を当てている19の文献から17の明確な定義を抽出した。
これらの定義のうち、AMA(1999)、IOM(2004)、WHO(1998)によるものが抽出した文献の中で最も頻繁に引用されている。

これらの定義が共有する特徴は、適切な意思決定をするために必要な健康情報やサービスを入手し、評価し、理解するための個人技術へ焦点を当ててているところである。
だが、最近のヘルスリテラシーの役割に関する議論では個人への焦点を超え、個人の技術と保健医療システムの相互作用としている。

この広い見方はZarcadoolas, Pleasant & Greer(2003)による定義の中で現れている。彼らは保健医療に関する教養がある人は健康の概念や情報を新しい状況に適応させ、健康や医療、科学的知識、文化的信念の対話に公共でもプライベートでも継続して参加できると述べている。

定義に関するコンテンツ分析は6つのクラスタを生んだ:(1)能力(competence, skills, abilities); (2)行動(actions);(3)情報と資源(information and resources);(4)目標(objective);(5)状況(context);(6)時間(time)

これらから、確認された17の定義の本質を捉える‘すべてを含む(all inclusive)’包括的な新しい定義を開発した。

Health literacy is linked to literacy and entails people's knowledge, motivation and competences to access, understand, appraise, and apply health information in order to make judgements and take decisions in everyday life concering healthcare, disease prevention and health promotion to maintain or improve quality of life during the life course.

ヘルスリテラシーはリテラシーと関連し、人生の道筋を辿る中で、生活の質の向上や維持を目的とした健康向上や疾病予防、保健医療に関する日常生活での意思決定や判断を行うための健康情報を人々が利用し、理解し、評価し、適応させる能力や動機、知識を伴う(訳 自分)。



健康情報を獲得し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定をしたりして、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるもの(中山先生による訳)。




・ヘルスリテラシーの概念
概観することで二つの問題が明白になった。
初めに、ヘルスリテラシーは多次元の概念であり、異なる構成要素から成る。次に、ほとんどの概念モデルはヘルスリテラシーの重要な構成要素を考慮するだけでなく、ヘルスリテラシーを健康アウトカムに結びつける道筋に加えて、個人のヘルスリテラシー水準に影響を与える個人レベルと集団レベルの要因を明らかにしている。

ヘルスリテラシーの次元
医療と公衆衛生におけるリテラシーの違いは異なる次元の識別において反映されている。

集団ヘルスリテラシーという見解の提案者は個人の能力や医療という文脈を超えた次元を含むためにその概念を拡大している。
その模範となるモデルがNutbeamのものであり(Nutbeam, 2000)、ヘルスリテラシーの3つの類型型の相違を見分ける。(1)機能的ヘルスリテラシー(Functional health literacy)は日常生活で効果的に機能するために必要な読み書きの基本的なスキルをである;(2)相互作用的ヘルスリテラシー(Interactive health literacy)はより高度な認知的、読み書きのスキルであり、社会的スキルとともに、日常的な活動に活発に参加し、様々な形式のコミュニケーションから情報を入手したり意味を引き出し、新しい情報を変化しつつある環境へ適用するために利用される;(3)批判的ヘルスリテラシー(Critical health literacy)はより高度な認知的スキルであり、社会的スキルとともに、情報を批判的に分析し、この情報を日常的な出来事や状況をよりコントロールするために使用することに適用される。
(参照:健康を決める力 ヘルスリテラシーの定義http://www.healthliteracy.jp/comm/post_7.html)
個人の健康管理から健康の社会的決定要因まで広がる広大な範囲をを持つ健康知識に従事するだけでなく、健康に関わる意思決定でのより良い個人的エンパワメントと自律性を次第に支援するスキルと知識の水準を異なる類型型が表している(Nutbeam, 2008)。

ヘルスリテラシーの重要な構成要素と考えられる要因の範囲は広大である。また、概念モデル間で広く違いがある。だが、この広く広がっている観点の多様性は2つの次元に減らすことができ、特に核となるヘルスリテラシーの質(基本的や機能的、相互作用的、臨床的ヘルスリテラシー)と、その適用の範囲や領域(保健医療の患者として、市場の消費者として、政界の市民として、メディアと関わる市民として)


前提
人口統計学的要因、心理社会的要因、文化的要因など

Nutbeam(2000)はヘルスリテラシーは教育や、社会的流動?(social mobilization)やアドボカシーのようなヘルスプロモーションの実施の結果であると指摘する。


結果
ヘルスリテラシーが健康状態自己記録の向上や保健医療コストの低下、健康知識の増加、入院の短期化、保健医療サービスの利用減少などをもたらす。

研究者らによるとヘルスリテラシーと健康アウトカムの関係は、単純な直線より、閾値効果を持った階段関数として考えなければならない。

Nutbeam(2000)はヘルスリテラシーによる個人的ベネフィットと、地域またはコミュニティベネフィットを区別している。
個人的ベネフィットの観点から、機能的ヘルスリテラシーはリスクや保健医療サービスに関する知識の増加、指示された行動の遵守をもたらす;相互作用的ヘルスリテラシーは自主的な行動力の向上、動機や自信の向上をもたらす;批判的ヘルスリテラシーは社会的不幸や経済的不幸に対するレジリエンスをもたらす。
コミュニティ、社会的ベネフィットの観点から、機能的ヘルスリテラシーは集団健康プログラムへの参加を増加させる;相互作用的ヘルスリテラシーは社会規範や社会集団との交流に影響を与える力を高める;批判的ヘルスリテラシーはコミュニティエンパワメントを向上させ健康の社会的、経済的要因を元にして行動する力を高める。


ヘルスリテラシーの統合概念モデル
文献の中でヘルスリテラシーの多くのモデルが示されてきたが、発展するヘルスリテラシーの定義とそれが意味する能力を並べるために十分に包括的とみなせるものは無い(Protheroe, 2009)。
これはおそらく、ヘルスリテラシーを概念化しようとする試みが今までヘルスリテラシーに関する様々な見方を取り巻く既存の知識を統合することに失敗してきたことによる。

そこで既存の概念モデルの主要な次元を包括したヘルスリテラシーの統合概念モデルを提示する。
Sorensenらによるヘルスリテラシーの統合概念モデル

3つのレベルの領域(Health care, Disease prevention, Health promotion)を持った健康情報の処理としての4次元(Access, Understand, Appraise, Apply)の組み合わせは、ヘルスリテラシーの12次元を持つマトリックスを生む。


考察/結果
重要なこととして、このモデルはヘルスリテラシーを高める介入の発展させる概念基礎として用いることで保健医療の実践や、疾病予防、ヘルスプロモーションを支援することができる。
さらに、測定ツール開発のための基礎として用いることでヘルスリテラシーに関する研究に貢献する。現在利用できるヘルスリテラシーの測定ツールは文献で議論されている概念の全ての側面を捉えてはいないので、公衆衛生に対するヘルスリテラシーの定義と付随する概念モデルを反映しているヘルスリテラシーを評価の新しい尺度開発が必要である。
概念の妥当性確認アプローチに従うことで、ここで呈示した概念モデルで描かれた次元評価のための尺度が開発可能である。
これは分野の最先端を反映し、社会研究のためや公衆衛生の実践において適用できる、ヘルスリテラシーの包括的な測定を生むでけでなく、その概念モデルを承認し、こうしてヘルスリテラシーの理解に貢献する。



一番重要な統合モデルに関する3領域×4次元は明快でわかりやすかったのですが細かいところがまだちゃんと理解できていません。もう少し深めて分かっていければ追記していきます。


[1]Sørensen et al.: Health literacy and public health: A systematic review and integration of definitions and models. BMC PublicHealth 2012 12:80.

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