2013年9月30日月曜日

へルスリテラシー尺度の整合性を見る

久しく備忘録としてのブログをさぼっていました。
もちろんこの間に勉強したこともたくさんあるのですが、ついつい後回しにしてしまいました。
今日は私が9月18日の研究会でも発表したお話から一部分メモっておきます。
当日の発表内容は近日中に研究室のブログにまとめておきます。
(近いうちにリンクを張ります。)
2013年10月03日更新しました。2013年度第18回研究会(発表担当:松本)のブログはこちらからどうぞ。


最近、ある特定の集団だけを対象とするのではなく、一般集団のヘルスリテラシーを測る包括的な尺度として、以前このブログでもメモしたOsborne先生らのHealth Literacy Questionnaire(HLQ)(Osborne et al,. 2013)[1]や、EUのSorensen先生らによるHealth Literacy Scale(HLS‐EU)(この尺度開発に関して論文には出ていませんが、The Health Literacy Surveyから出ている"COMPARATIVE REPORT ON HEALTH LITERACY IN EIGHT EU MEMBER STATES"で見られます。定義に関するシステマティックレビューはHealth literacy and public health: A systematic review and integration of definitions and models.[2]が見られます。)があります。
そこでOsborne先生らのHLQとSorensen先生らのHLS‐EUの整合性を見ようと比較を行いました。この2つはほとんど同じような時期に開発されていますが、内容としてはどのような違いがあるのかを学びたいと思います。

HLQは一般集団や患者、専門家などからの調査を経て開発された9次元の44項目からなる尺度であり、HLS‐EUではヘルスリテラシーの定義のシステマティックレビューをもとに開発された12次元の47項目からなる尺度となっています。

HLQは1.保健医療の専門家からの理解や支援を得ていると感じること、2.健康管理のための十分な情報を持っていること、3.能動的な健康管理、4.ソーシャルサポート、5.健康情報の評価、6.専門家と協働する力、7.保健医療システムの利用、8.良質な健康情報を探す力、9.何をすべきかが十分に分かるような健康情報の理解、といった9次元になっています。

これに対してHLS‐EUではまずヘルスリテラシーの核となる能力として、情報のAccess/obtain(収集)、Understand(理解)、Process/appraise(評価)、Apply/Use(利用)とういう4次元に分け、さらにこれらを用いる3つの場面としてHealth care(医療)、Disease prevention(疾病予防)、Health promotion(健康の向上?)という場面を設定しています。結果、4(列)×3(行)のマトリックスの表ができ12次元となります。

この表(下図参照)を横に見て場面に分けたヘルスリテラシーをそれぞれ、Health Care Health Literacy(HC-HL)、同様にDisease Prevention Health LIteracy(DP-HL)、Health Promotion Health LIteracy(HP-HL)、最後にこれら三つを合わせたものをGeneral-Healt Literacy(GEN‐HL)としています。

この12次元の表にたいして、HLQの9次元がどのように当てはまるかというところを見てみると(私の独断と偏見によりますが)、







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Access/obtainUnderstandProcess/appraiseApply/use
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Health care7.Navigating the healthcare system 8.Ability to find good health information9.Understanding health information well enough to know what to do5.Appraisal of health information3.Actively managing my health
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Disease prevention7.Navigating the healthcare system9.Understanding health information well enough to know what to do5.Appraisal of health information3.Actively managing my health
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Health promotion7.Navigating the healthcare system 8.Ability to find good health information9.Understanding health information well enough to know what to do
3.Actively managing my health


という感じでしょうか。
HLQの1、2、4、6はHLS‐EUでの対応部分はあると言い難く、逆に、HLS‐EUのHealth PromotionにおけるProcess/appraiseはHLQにあると言い難いということです。

ヘルスリテラシーの能力として言われるところの情報の収集、理解、評価、利用は整合性があると言えます。表のHealth promotionを横に見ると、Process/Appraiseの所だけ空欄ですが、これはHLQの9次元の中にここに当てはまるものが無かったということです。
反対にHLQで1次元を構成するソーシャルサポートなどに関する質問項目はHLS‐EUでは見られず、また専門家との協働なども見られません。

どちらもヘルスリテラシーが社会的、認知的スキルであることを宣言していますが、HLQの方が社会的スキルとしての質問項目を含んでいるようにも見えます。しかし、HLS‐EUは社会的または身体的環境における健康の決定要因に対する認知を問うなどやはり自分の力としてだけではなく社会的なスキルとして位置づけているように感じられます。

先に触れたようにHLS-EUはHC-HL, DP-HL, HP-HL, GEN-HLと分けられていますがこれをどのように使い分け、結果を解釈するのかについていまいち不明なので今後も追っていきたいと思います。
それにしてもヘルスプロモーションの領域を構築したというのが画期的なところだと思います。


これは当然のことですが、開発の方法や地域、研究者によって、またヘルスリテラシーをどのようにとらえるかによって開発される尺度も少しずつ変わってきます。
もちろんその開発のなかでの妥当性や信頼性は一貫していなければなりませんが。
広くコンセンサスのとれた尺度があるのであれば、それを使えばいいのかもしれませんが、ヘルスリテラシーというまだまだ発展途中の場合、自分の研究にどの尺度を利用するのか、なぜそれを利用するのか、はたまた新たな尺度を開発するのかといったところを考えていく必要がありそうです。

実は先日、順天堂大学の福田洋先生の臨床疫学ゼミにお邪魔し、そこの院生である知人の方がヘルスリテラシーに関する研究の発表を行っていました。
ヘルスリテラシーのことを私なんかより断然勉強されており、その上で自分に必要な尺度を選択し、自分が明らかにしたいことを分かりやすく発表されていました。
同じ修士として、また関心領域が近い者としてとても刺激になりました。
ゼミの皆様ありがとうございました。

夏休みも終わるので私ももっと頑張らなくては...



[1]Osborne et al.: The grounded psychometric development and initial validation of the Health Literacy Questionnaire (HLQ). BMC Public Health 2013 13:658
[2]Sørensen et al.:Health literacy and public health: A systematic review and integration of definitions and models. BMC PublicHealth 2012 12:80.