2013年10月28日月曜日

第72回公衆衛生学会② 

前回に続き公衆衛生学会の参加報告メモです。
さすがは公衆衛生学会、本当に様々なテーマで発表、議論が行われていました。
多くのポスターやビッグデータに関する公演を見たのですが、ここではヘルスリテラシーに関わる所をメモしておきます。



直接ヘルスリテラシーが言及されることは無かったのですがシンポジウムの

   健康日本21(第2次)の新たな課題~健康格差の縮小を目指して~

は興味深く聞いておりました。これは健康日本21(第2次)の策定に関わった5名の方に、健康格差の縮小をテーマとして発表してもらうものです。

話の内容としては、
厚生省の河野先生は健康日本21(第2次)では健康寿命の延伸と健康格差の縮小が方針として示されたことに触れ、健康格差を地域格差の点からお話されていました。
国として、地域ごとの健康格差対策への取り組みのモニタリングが重要で、そして実態把握をすること、その背景の要因分析を進めることで今後の課題と対策を明確にしていくとのことでした。
藤田保健衛生大学の橋本先生はこのことに加えて健康寿命の点から具体的なお話をされていました。
続く3人の方も栄養、循環器疾患、口腔といった点から健康日本21の目標に向けたお話をされていました。この発表の中でいくつかの日本のコホート研究が取り上げられており、日本の大規模なコホート研究についてあまり知らなかったということを認識させられました。
疫学を勉強したのに具体的活動を知らないとはもったいないことです。
データを読むという意味でも調べて勉強する必要があると思います。
あとは、健康格差の話では避けて通れないであろう健康の社会的要因等が取り上げられていて面白かったです。

個人的にはヘルスリテラシーの話が出るかと期待もしていたのですが、その言葉は聞けませんでした(聞き逃しの可能性は否めないのですが…)。
ヘルスリテラシーは健康の維持や向上に重要な役割を果たし、健康格差の不確実な先行要因となりうると言われているように(Rudd, 2007; Lee et al., 2010, Paasche-Orlow et al., 2010)公衆衛生のゴールであり、健康の決定要因の一つとしての認知は高まっています。
もっとエビデンスが蓄積してくればこの場でも大々的に扱われるかもしれません。

ディスカッションの場では、地域格差に対して、地域は様々な特有の文化を反映しており簡単に是正できるものではないところがあるがどうするかというような鋭い指摘がありました。これに対してどのような答えだったか実はちゃんと覚えておらずメモしなかったことを後悔しているのですが、地域の特性も含めてまずは把握することが重要であるというような感じだった気がします(ごめんなさい、当てにしないでください)。


話は変わりまして、もう一つの話題をメインシンポジウムの

   変革期の公衆衛生学とヘルスコミュニケーション

からご紹介します。
座長の一人は日本のヘルスコミュニケーション領域でも有名な中山健夫先生です。私がまだ学部生の頃、大学院進学を考えている時に京都大学で一度お話させてもらったのですが、私のとりとめの無い話を非常に丁寧に話を聞いてくださったことを覚えています。中山先生もシンポジストの一人としてヘルスコミュニケーションについて分かりやすくお話しされていました。

このシンポジウムの話としては妊孕能や認知症についての具体的な話がありました。特に座長のもう一人である大東文化大学大学院の杉森先生は妊孕能に関するリテラシースケール(Cardiff Fertility Knowledge Scale : CFKS)とHLS14(後述)の相関を見るなど興味深い研究をされていました。また杉森先生はSorensen先生のヘルスリテラシーの統合概念モデルに触れるなど、私には非常に関心の高い所をお話されていました。具体的にTeachbackなどについても触れていました。

さて、先ほどのHLS14ですがこれは14-item health literacy scale for Japanese adultsのことです。
これは私が一番楽しみにしていたシンポジストである須賀万智先生らが開発したものです。
須賀先生はヘルスリテラシーについて丁寧に説明されていてとても分かりやすかったです。
説明の中でNutbeam先生によるヘルスリテラシーの分類を取り上げており、ヘルスリテラシーをリスクファクターとして捉えることによる入院などのアウトカムという考え方と、ヘルスリテラシーを資産として捉えることでヘルスリテラシーそのものがアウトカムになるという対峙を明確に述べていました。

私もこの点については文献を読んで勉強したつもりでしたが、先生のお話でスっと落ち込むような感じがありました。同じ文献を読んでいても吸収する度合いが全く違うのだろうなと痛感したのですが、これは私がもっと努力していくしかありません。

先生の話の後半はHLS-14についてです。
もともと日本でヘルスリテラシーの尺度として有名なものは石川先生らの開発した糖尿病患者のヘルスリテラシースケールがありました。しかし、患者ではない一般集団に対するより包括的な尺度開発のためにそれを発展させましました。
実際にHLS-14を用いて研究を行うと、HLの高い人の方が健康医療情報を収集する情報源が多かったり、治療上の意思決定にも主体的に参加したいと考えているということが明らかになったとのことです。

HLS-14は世界的に見ても様々な文献で取り上げられています。
尺度開発に興味が出ている私はHLS‐14についても勉強する必要があるなと感じました。
この尺度はどのように作られているのか、他の尺度との違いは何か。
私が研究を進めていく上でHLS-14が優れているものであればそれをお借りして研究することもできます。別に尺度を開発する必要があるのであればそれはなぜか、この点は明確に言語化できないといけないところでしょう。



以上が公衆衛生学会参加報告のメモでした。
自分の考えを見つめるのにも大変重要な機会となりました(学会に限らずその後のお酒の席もそうでした(笑))。
11月は研究会において研究の発表があるので進めていかなければなりませんし、いいモチベーションにもなりました。
ただし、心残りは発表をしなかったことです。
知人の方々が発表されている姿にはやはり刺激されます。
来年は発表したいです。というかします。
そうすると抄録の提出が5月位だったと思いますが時間が…頑張ります。

2013年10月27日日曜日

第72回日本公衆衛生学会① ~Kawachi先生講演~

10月23日から25日まで三重県で開催された公衆衛生学会に参加してきました。
その一部(Kawachi先生による講演の)メモです。



参加にあたって最初の注目はやはり、Harvard School of Public HealthのIchiro Kawachi先生による基調講演です。
先生の本や文献は読んだことがありましたが、実際に公演を見るのは初めてなので楽しみにしておりました。

いざ会場へ行くと大ホールにはすでに人であふれており、さすがKawachi先生です。
話は健康の社会的決定要因のお話です。
社会的決定要因については日本でもかなり議論されるようになってきたと思います。
今回の公衆衛生学会でもテーマとして様々な所で取り上げられていました。

その社会的決定要因について先生は行動経済学の観点からのお話をされていました。
導入としてアメリカの肥満の話から入り、いくつかの研究とともに紹介されました。
特に面白かったのはその中の一つ、映画館でポップコーンを使った研究のです。

映画館で映画を見る人に対してランダムに小さいカップに入ったポップコーンと大きいカップに入ったまずいポップコーンを二つのグループを作ります。
ここで重要なのはまずいという所でしょう。単純に考えて、それが美味しかったらあるだけ食べてしまうと考えられますが、まずいということはカップのサイズに関わらずどちらのグループも同量食べて後は残すと考えられます。もちろん個人差はあれどグループとして見たときにそうなるだろうということです。
結果は大きいカップに入ったまずいポップコーンを渡された人のほうが小さいカップに入ったまずいポップコーンを渡された人と比べて明らかに多くそれを食べていたということです。
つまりここから言えることは、私たちは、目の前にあるものを食べてしまうということです。
どれ位の量を食べようかという私たちの意思決定は与えられたポップコーンの量に依存しているのです。

研究者としてこれに興味があるのであればちゃんと文献を確認すべきだと思いますが、このような話は様々な事例で報告されているのである程度のエビデンスは蓄積しているのではないでしょうか。また、個人的に行動経済学的な話に興味がある方にはTEDのDan Arielyの公演を見ることをおすすめします。

先生は、このような観点は政策を考えるのに必要であるとし、人の関心に関する研究も紹介されていました。募金を促すのに、人の顔が見えるポスターというのは、実際の難民の数などの数値が事細かに入った説明書きより明らかに有効だというものです。面白いのは二つの合体よりも顔だけの方が有効だということです。なぜでしょう。感情と論理では感情が重要となる場面があるということです。
日本の公衆衛生学的なアプローチはそういった点はなかなか考えてきませんでした。
それでも少しずつソーシャル・マーケティングといった考えも出てきて、今後もっと積極的になることに期待したいです。

話の最後は早期教育の重要性についてウォルター・ミシェル先生のマシュマロテストについて取り上げお話されました。
このテストで我慢できる子は14年後の対処能力や学力と相関があったのです。
他にもペリープログラムなどを挙げ、早期教育によって身につく忍耐力は将来の健康行動につながるとのことです。
コストという面で見ると、確かに初期投資が大きくなるのですがその後の社会にかかる費用が抑えられ結果的には利益になるとされています。
この点についてはノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者であるジェームス・ヘックマンの論文もあります。



以上がKawachi先生のお話でしたが、先生のお話は学際的でとても面白いです。
日本では学際的という言葉を使いながらも実際は独立しているということが多くあります。
公衆衛生学というすでに広い学問のはずの中でもやはり相互作用が起こりにくということを感じます。
そういえば以前、研究会の輪読でシステムに関する話を扱ったのですが、システムの定義に相互依存や相互作用といった言葉がありました。
その意味では公衆衛生学に限らず日本の学問はまだシステムとしての体系になれていないのかもしれません。

書き足しでもう一つ、今年の11月からKawachi先生のオンラインコースが無料で受けられるそうです。edXのこちらで受けられるようです。
これはぜひ受けてみたいと思います。

本当は学会参加報告で1つのエントリを書こうと思っていたのですがKawachi先生の話だけで書きたいことがどんどん増えてしまったので、また別に学会についてのエントリを書きたいと思います。

2013年10月22日火曜日

ヘルスリテラシーと社会的要因の関連性

今回もthe European Health Literacy Survey(HLS-EU)に関する文献からです。
Health literacy of Dutch  adults: a cross sectional survey[1]
論文はこちら


■背景
ヘルスリテラシーの概念への関心は、保健医療の中の市民とヘルスケアが持つ役割と責任に対する強調を伴いながら増してきた(Kickbusch & Nutbeam, 2000; Nutbeam, 2000; Chinn, 2011)
多くの研究によって研究課題としてのヘルスリテラシーの重要性は指摘されており、ヘルスリテラシーは健康の維持や向上に重要な役割を果たし、健康格差の不確実な予測因子になる可能性があると言われている(Rudd, 2007; Lee et al., 2010, Paasche-Orlow et al., 2010)。

・ヘルスリテラシーの定義と範囲の議論
この議論は二つのアプローチに分けられる。
→‘clinical(臨床的)’ approachと‘public(公衆衛生的)’approach
この違いは、保健医療内の患者の能力であるか、患者や医療を超えた(例、職場、政治、家)公共への働きかけによる概念の拡大にある。

ほとんどの研究は臨床的視点に基づいている。
公衆衛生的視点の研究としてHLS-EUsurveyの実施。

・研究目的
ヘルスリテラシーに関して構築されている理論的知識に寄与すること。
それによって一般集団のヘルスリテラシーに対する先見的な洞察を得て、人口統計学特性や社会経済学的特性との関わりを調査する。
人口統計学的特性や社会経済学特性とヘルスリテラシーの関係に対する的確な洞察は、健康状態にリスクを持ちヘルスリテラシーが不十分である立場の弱い(vulnerable)集団を明らかにすることにつながる。


・リサーチクエスチョン
1) 成人は各領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)において、ヘルスリテラシーの能力である健康情報の収集、理解、評価、適応にどの程度難しさを認知しているのか
2) この能力は人口統計学的特性や社会経済学的特性とどの程度関連があるのか。
■方法
・研究デザインとデータ収集
オランダの15歳以上の人に対して層化ランダムサンプリング
―人口数と密度に比例した包含確率(a probability of inclusion)にするために、都市部と田
  舎に応じ た州内部と州での層化

家庭はエリア内でランダムに選択され、電話やメールによって各家庭から1人をバースデイルール(家族の中の15歳以上の人で誕生月が早い人が対象となるものでしょうか)のようなものでリクルート。
2011年の7月にリクルートされた人に対面で質問紙を渡し実施。2817人のうち、1794人は参加意思がなく1023人(36%)が対象となった。25歳以上の人だと収入や教育、社会的地位に関して回答が安定することから分析対象を25歳以上とし、最終的に925人の成人が対象となった。

・変数の評価
ヘルスリテラシー
前回のエントリで取り上げた尺度開発の概要なので詳細は割愛しますが、引用文献にThe development and validation of the European health literacy survey(hls-eu)[2]という論文が挙げられていました。アブストを読む限り前回エントリの尺度開発の文献と似た内容ですが、以前から尺度開発の論文が出ているとは知りませんでした。すぐに読みたいと思います。

質問項目47項目:
(a)情報の収集能力に関する(13項目)
(b)情報の理解能力に関する(11項目)
(c)情報の評価能力に関する(12項目)
(d)情報の適応能力に関する(11項目)

回答カテゴリは4件法のリッカートスケール:
1=とても難しい(very difficalt)
2=まあ難しい(fairly difficult)
3=まあ簡単(fairly easy)
4=とても簡単(very easy)
“分からない”という選択肢は与えなかったが、回答者がそのように答えた時に使われ、欠損値として記録。

得られた回答は能力ごとに合計し、非常に難しいと感じている人とあまり難しいと感じていない人に分けた。4つ全ての能力で得点が最も低い回答者(収集、理解、評価、適応に対して第一四分位数より低い人)は非常に難しいと感じていると分類し、得点が最も高い回答者(第三四分位数より高い人)はあまり難しいと感じていない人とみなした。
これと同じことを全ての領域としてだけでなく、各領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)ごとにも行った。

人口統計学的、社会経済学的特徴
以下の人口統計学的特性や社会経済学的特性を分析:

年齢→連続変数
教育水準→1)教育無し、または初等教育、2)中学校教育、3)高等学校教育、または中等教育(中学・高校教育)を受けた後、高等教育(大学)を受けていない(専門学校の人などが当てはまる)、4)大学教育以上
一ヶ月の世帯所得→10点満点スケール 分析においては四分位数:1)1850ユーロ(日本円で25万円弱位?)より低い、2)1850-2400ユーロ、3)2400-3600ユーロ、4)3600ユーロ以上で記録
社会的地位→社会的地位の認知(自己記録による変数) 1(最も低い社会階層)-10(最も高い社会層)の間で選択。低い(1-4)、中間(5、6)、高い(7-10)の連続変数

・統計解析
質問紙の信頼性と内部一貫性を検証するためにプロマックス回転を用いた主成分分析(論文にこのデータは載っていません)を行い、クロンバックのαを計算。
質問項目(収集、理解、評価、適応)の内部一貫性は十分であった(それぞれのクロンバックのα=0.84, 0.83, 0.85, 0.87)
※ただし、この後の結果を示す表を見ると収集能力に関する質問が13から11に、適応能力に関する質問が11から9に減っているので、内部一貫性を高めるために削除したと考えられます。

因子分析の結果、定義した領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)に従って、収集、理解、適応の能力に対するヘルスケア因子、疾病予防因子、ヘルスプロモーション因子に分けられた。
評価能力に関しては、因子分析では2つの因子を特定し、それらを‘ヘルスケアと疾病予防’、‘ヘルスプロモーション’とラベル化し、ヘルスケアと疾病予防におけるヘルスリテラシー測定のためにデザインした項目を結合した。

合計得点と各項目の平均値による記述統計は最初のリサーチクエスチョンの答えになる。
2つ目のリサーチクエスチョンに答えるためにヘルスリテラシーと人口統計学的、社会経済学的特性の関係に関して多重回帰分析を実施した。

欠損地
欠損地に対して、多重代入法MICE(Multiple imputations by Chained Equations)を用いるが、完全にMAR(missing at random:ランダムに起こる欠損値で、欠損する値の大きさ自体はランダムで、欠損が起こることは他の変数で影響を受けているもの)というわけではない。
全体の分析の結果を得るためにRubine's ruleに従う(Van Buuren, 2012)
これはバイアスが少なく、欠損値を扱う最新の方法とされている。

■結果と考察
結果に関しては記述するより表を見たほうが早いので…
Table4 Descriptive statistics per health literacy competence and domain(N=925)[1]

各領域の項目の平均値はおよそ3(easy)に近いです。結構高いですね。
一番低いのがAccessのヘルスプロモーションで2.6です。ヘルスケアや疾病予防より低くなるのは感覚的に分かる気がします。
逆に一番高いのはUndestandingの疾病予防とApplyingのヘルスケアで3.6です。疾病予防の情報が理解できるということ、医療場面において情報を適応できるということです。後者に関してはこんなに高いのかと感じましたが、質問紙の方で質問を確認してみると病状に関する医師からの説明を意思決定に使えるか、処方箋に関する指示に従う、緊急時に救急車を呼ぶ、医師や薬剤師に従うといった明確で分かりやすい質問であることを反映している気がします。

ヘルスリテラシーと人口統計学的、社会経済学的特性の多重回帰分析の結果についても…
Table5 Associations between socio-economic and demographic characteristics and healrh literacy competences[1]

ちなみに2変数の単回帰では一貫した関連はなかったようです。
多重回帰(Table5)で見ると、いくつか関連が見られます。
全体を見渡すと、ヘルスケアと疾病予防における人口統計学的、社会経済学的特性とヘルスリテラシーの関連性は似ている気がしますが、ヘルスプロモーションでは全く違った関連性を表しているように見えます。

ヘルスケアに関して表を横に見れば、教育はAppraising以外で、社会的地位は全てに関連性があります。
疾病予防ではAccessing、Understandingにおいて全く同じ関連性です。教育、所得、社会的地位、年齢、性です。

ヘルスプロモーションでは社会的位地位や年齢が多く関連しています。

見ていて思うことは情報が多く一つ一つ解釈するのが難しいです。
ヘルスケアと疾病予防において年齢が上がると難しさが増加していることから、これはパソコン媒体の利用を反映してるのかなと思いましたが(高齢者の方が利用へのハードルが高いと考えられる)、ヘルスプロモーションの所では逆の結果になっています。

これらの解釈を進めていくためにも今後はもっと質問項目を吟味していく必要がありそです。

性に関して見ると、ヘルスケアと疾病予防の領域において女性の方が男性より情報に対する難しさを感じていないようです。

■限界
今後の研究ではさらにモチベーション等の変数が必要になる。
高齢者の対象者が多いように国のサンプルの代表性を確保していない。だが実際には大きくアウトカムには影響していないようである。
etc.



先ほども述べましたが、今後結果の解釈をもう少し吟味していくためにやはり質問項目の検討を進めたいと思います。
特にヘルスプロモーションの領域におけるヘルスリテラシーとの関連性は今まで無かった取り組みなので気になるところではあります。
そういえばHLS-EU-Qには47項目版に加え、16項目版と86項目版もあるようでそこら辺の文献もあれば読みたい所です。
追記H25/12/4→86項目版とはヘルスリテラシー項目47項目と社会的要因39項目(NVSを含む)のことで、今回の研究ではそ47項目とその一部または86項目版を利用しているようです。

[1]van der Heide et al.: Health literacy of Dutch adults: a cross sectional survey. BMC
  Public Health 2013 13:179.
[2]Fullam J, Doyle G, Sorensen K, Van den Broucke S, Kondilis B: The development
  and validation   of the European health literacy survey (hls. eu). Ir J Med Sci 2011,
  108:225–226.



2013年10月19日土曜日

HLS-EU-Qの開発プロセス

European Health Literacy Survey(EUの8カ国による調査)の際に開発された尺度、HLS-EU-Qの尺度開発の文献[1]が出ていました(先生からのアナウンスで知ったのですが)。
文献はこちら
授業でもこの文献を取り上げて勉強していますのメモします。
尺度開発の勉強になりますが、まだまだ知識不足、英語力不足、そもそも勉強不足を痛感しております。



■背景
導入冒頭ではNutbeam先生の定義(2000)を取り上げ、ヘルスリテラシーのへの関心の高まり、そして尺度への関心の高まりを述べています。

続いて既存のヘルスリテラシーの尺度を取り上げています。その上で既存の尺度の大きな欠点として次のように上げています。
ヘルスリテラシーに関連する側面を捉えられていないこと、概念の限られた要素にしか焦点が当たっていないこと、集団としての側面を除いて個人の特性に焦点を当てていること、定義と概念位対してあいまいな関係であること、ヘルスリテラシーによる因果関係に弱い関係しか示していないこと(Jordan, Osborne, and Buchbinder, 2011)。

そしてヘルスリテラシーの包括的な測定は次の属性を反映すべきとしています。
検証可能な理論や概念枠組みに明確に基づく;複合的な概念領域や実際的な構成要素を持つ構成概念としてのヘルスリテラシーの理論を反映するために、内容や方法論において多次元的である;複合的な方法を使う;コミュニケーションとヘルスリテラシーを明確に区別する;測定は根底的な理論や概念枠組みによって描かれる概念領域からサンプリングされた多数の項目を含むべきであるという理解のもと、ヘルスリテラシーを潜在的な構成概念として扱う;公衆衛生的(public health)な行動やアウトカムを研究するために、測定は臨床場面に特化すべきでないという理解のもと、適合性の原理を守る;文化、人生、人口集団、研究場面を含む文脈において比較を可能にし、等しくある;社会研究や公衆衛生への利用を臨床場面に対して優先させる(Pleasant, McKinney, and Rikard, 2011)。

HLS-EU-QはこのPleasant先生らの原理を用い、そしてこのブログでも何度か取り上げたSorensen先生らが開発した定義と概念モデルによって開発を進めています。

・目的
人口集団におけるヘルスリテラシーの概念に基づく多元的、多国的、学際的、包括的測定を目的として、ツールの項目開発、プリテスト、フィールドテスト、外部コンサルテーション、言語のチェック、尺度翻訳に関して行われた構造的で体系的なアプローチの詳細なアウトラインの呈示。
それによりHLS-EU-Qをデザインすること大規模な発展過程に対する洞察を提供し、後の利用や承認に対して有効的にする。
―開発過程における実施された各段階に対する方法の説明
―その次に各段階に対する結果
―最終的に、開発過程とHLS-EU-Qの属性を本質と制限という点から議論


■方法
・Applying a concept validation approach
Pleasant et al.(2011)の原理に沿って、HLS-EU-Qの開発は概念妥当性アプローチ(concept validation approach) に従う。
デザイン過程はSorensenら(2012)のヘルスリテラシーの定義と概念モデルに基づく。
Questionnaire development 
概念モデルから始まり、論理的で体系的かつ構造化された開発過程を経て、定量的方法に加え定性的方法を含む次の8つの段階を含む(おそらく上の「Applying a concept validation approach」が1つ目の段階に含まれます。): 

・Item generation
項目を開発するためにデルファイ法を利用。

・Focus groups
表面的妥当性の検証
―参加者と各グループによる質問紙のデザイン、明瞭性、内容に関するフィードバック。
―便宜的サンプリングにより実施。一般的な市民スキルに加え健康や、さらにはヘルスリテラ
  シーに関する知識を持った参加者―参加している3つの大学からスタッフと生徒を含む。
・Pretesting
フォーカスグループにより修正したものを二カ国(アイルランドとオランダ)でフィールドテスト。
各国で50のコンピューター補助による対面インタビュー。
有意選出法 により実施。
不適正な手続きがあった1インタビューを除き上99のインタビュー。
インタビューの所要時間としては25分~90分。

データ分析に関する方法論的アプローチ
―質的分析…ログブックと観察によるデータとコメントやフィードバックの吟味
―量的分析…項目分析、主成分分析、信頼性分析

項目分析→弁別力の低い項目を除外するために各項目に対する反応分布の吟味(同カテゴ
        リーにおける95%以上かそれ以上の解答)。
主成分分析→各領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)に対して個別に分析。
      情報の4つのプロセス次元に関する4つに収斂した成分の数を持つ。
      バリマックス回転の実施。
      因子構造の検討とPCAの反復。
PCAによって得られたスケールの内部一貫性はクロンバックのαによって検証 

・Expert consultation
質問紙の技術的特性(スケーリング、項目のオーダリング等)に加え構成概念妥当性を評価するために、健康やヘルスリテラシーの専門家によるコンサルテーション。

・Finalisation of the questionnaire
具体的知識に関する質問のような客観的な質問項目は各国の文化的差異のために除外し自己記録項目へ。
リッカートタイプスケール とても難しいからとても簡単
・Plain language check
リテラシーの専門家による平易言語の検証。

・Translation
二人の独立した翻訳者が質問紙を英語から目的言語に翻訳。
専門家による二つの翻訳の評価。

■結果
・Item generation
初回デルファイ→合計136項目、ほとんどが自己記録陳述で5件法リッカートスケール。
次回デルファイ→43項目
・Focus group 
得られた意見
―構造→質問の順番を情報を扱う能力への焦点から領域への焦点へ、繰り返しの多さ。
―明瞭性→専門家バイアスがある。
―内容→(i)客観的質問や知識質問が難しすぎる。
      (ii)八カ国をカバーするほどの一般性が無い。
      (iii)社会的/文化的に受け入れられる答えを促す、回答者がプライバシー等の意見
       を共有するか、ヘルスリテラシーや社会経済的地位の質問に応じるか。
項目数を47項目へ。
・Field test
―質的分析
 長すぎる、包括的すぎる、繰り返しが多い、言語による専門家バイアス、時間がかかる 。
 似ている質問は統合。 
―量的分析
  項目分析→解答カテゴリで十分な変動(variation)がある、変動の少ない2つは削除。 
  主成分分析→ヘルスケアにおけるヘルスリテラシーを測る自己記録項目に対するPCAは4
          回の反復後、成分に分解され分散の59%。
          同様に疾病予防では分散の64%。
          ヘルスプロモーションでは分散の62%。
  クロンバックα→0.51から0.91。
            項目の少なさに敏感であることを考慮すれば得られた尺度は合理的に等
            質である。

・Expert consultation
得られた意見
(1)マネジメントに関する意思決定のための人の能力を見ることで質問紙の目的に忠実性を保つ。
(2)人々、患者に焦点を当て続ける。
(3)一般的なアプローチを維持する。
(4)デザインがシンプルである。
(5)明確な言葉を用いて専門用語を避ける。
(6)質問紙が簡単である。
・ Finalisation of the questionnaire
最終的に12のサブスケールに対して1スケールおよそ3~5項目を含む47項目の質問紙へ。
・Examination for use of plain language
the National Adult Literacy Agency in Irelandによる検証と修正。
・Translation 
英語をオリジナルとしアイルランドで利用。
ドイツ語はオーストリアでも利用。

■考察・限界
デルファイによって生まれた項目はヘルスプロモーションの領域で少ない。
多くの項目により部分的な合意になった。
フォーカスグループは3カ国、フィールドテストは2カ国のみ。
クロンバックのαに関して低いものがあり今後の研究が必要。
さらに広い代表性が異なる文化圏で質問紙を使うときに有効。
専門用語や根本的なパラダイムを手放す難しさ。
専門的な翻訳がプリテストの段階から行わるるとよい。
質と汎用性を高めるための研究が必要。



授業ではあいまいな理解になっているところをきちんと理解しようとまずconcept validation approachについて考えました。尺度開発の文ではよく見ますがこれはいったいどのようなアプローチなのか説明できなかったからです。
concept validation approachが論文の中でApplying a concept validation approachという見出しになっているようにconcept validation approachについての記述があるところを見なさいという示唆を先生から頂きました。
尺度を開発するにはまず、何を測るのかを明確にしなければなりません。つまり図るものの定義を明らかにするということです。そしてその定義にある概念は何なのか、その概念モデルを考える必要があります。方法の最初にApplying a concept validation approachが来ているように、concept validation approachによってこれから図るものを明らかにすることで、それにもとづき開発が進んでいきます。

次回の授業でも明らかにすべきところ扱うので、そこで学んだことはまた追記か、新しくメモしていきます。

[1]Sorensen K, Van den Broucke S, Jürgen M Pelikan, Fullam J, Doyle G, Slonska Z, Kondilis B, Stoffels V, Osborne RH, Brand H: Measuring health literacy in populations: illuminating the design and development process of the European Health Literacy Survey Questionnaire (HLS-EU-Q). BMC Public Health 2013, 13:948.