2013年12月13日金曜日

ナットビーム先生の文献から健康教育の歴史を見る

今さらですが、ナットビーム先生の

Health literacy as a public health goal: a challenge for contemporary health education and communication strategies into the 21st century[1]

を読みました。
だいぶ前に一度読んだことがあったのですが、その時は正直「ふーん」位しか思わなかった気がします。そこで今回あらためて読んでみたのですが、というのもTwitterのTL上にこれが流れてきてなんとなく読んでみるかと思い読みだしたんですが、率直な感想が「これめっちゃ秀逸な文献じゃん!」でした。

この文献を知らずしてヘルスリテラシーを修士の研究テーマに挙げていたとは恥ずかしい。
といっても前回読んだ時より再発見があるのは今研究室で学んでいるからこそなので、少しでも自分が成長(?)しているのであればそれは良いことだとポジティブに捉えたいと思います。

この文献の概要を分かりやすくメモしておきたいところですが、今回は歴史的背景を中心にメモしておこうと思います。ヘルスリテラシーを理解するにはこの文献で述べられている健康教育や健康の社会的(政治的?)な運動(キャンペーン)の歴史は抑えておく必要があるからです。
また、ナットビーム先生の言うヘルスリテラシーについては以前のエントリでも何度か取り上げているので割愛します。



ここでは先進国での話になりますが、1960年代1970年代は健康に関する運動は健康的な生活習慣による非感染症の予防に向けられていました。このような運動の多くは(健康・医療)情報のやり取りについて重点が置かれ、またコミュニケーションと行動変容の関係性に対する単純な理解に基づくものでした。ですが、そのような情報のやり取りのみに焦点を当て、個人の社会的状態や経済的状態を考えていなかった運動は、健康行動に影響をもたらすような期待された結果に到達していないということが明らかになってきました。1970年代に現れた多くの健康教育プログラムは、地域の中でも十分な教育を受け、経済的にも余裕がある人のみに効果的であるということが分かったのです。このような集団は伝統的メディアによって流される健康に関するメッセージを受け取り、それに対応するための高い教育水準やリテラシー、対人能力、経済的資源を持っていると考えられました。

1980年代には、より高度な、理論に基づく介入という新世代の発達により疾病予防のツールとして健康教育がかなり力を持つようになりました。
代表的な例としてアズゼンやフィッシュバインの計画的行動理論(Ajzen and Fishbein, 1980)やバンデューラの社会的学習理論 (Bandura, 1986)といったものがこの時代の健康教育に取り上げられています。また、同じときにソーシャルマーケティング (Andreasen, 1995)も現れてきました。

こういった歴史的な進歩があるにもかかわらず、これらのコミュニケーションや教育に頼った介入は行動変容という実際に持続性のある結果にほとんど到達せず、また、社会の中での異なる社会的、経済的集団間にある健康格差を縮小させることにほとんど影響をもちませんでした。

このような歴史をもう少し広くざっくり見てみます。、
19世紀の公衆衛生学的活動は、産業革命によってもたらされた壊滅的な住居や職場環境を改善する必要から健康の社会的、環境的な決定要因へ注意が向けられましましたが、20世紀後半には上述のようにそれが個人のとるリスク行動に向けられてしまいました。
ですが近年オタワ憲章やジャカルタ宣言を通して、ヘルスプロモーションは私たちが健康の決定要因を是正する力を向上させるための公衆衛生学的な取り組みとして理解されてきました。
そして今、この21世紀にヘルスプロモーションに変わって注目されているのがヘルスリテラシーといえます。

そしてナットビーム先生が言うヘルスリテラシーというのは情報の理解や適応にとどまらず、私たちが社会を変えていく力になります。ナットビーム先生も文中で述べているように、概念としては新しいものばかりではなく、むしろヘルスプロモーションと同じところが多くあります。ではなぜヘルスリテラシーとして取り上げられているのかと言えば、この文献内で"repackaging"という言葉が用いられているように、最近失われつつある本来のヘルスプロモーションの意味をヘルスリテラシーで"再包装"し再び社会に目を向けようという感じがあります。←Tones(2002)の言葉で言えばヘルスプロモーションというよりは「エンパワメント」の再銘柄化ですね。(H26/1/2追記)
そしてこれがナットビーム先生の言う所のcritical health literacyです。これは個人だけでなく社会や地域に益するものとして位置づけられています。



この文献を読むと分かると思いますが、ヘルスリテラシーという言葉を使って非常に明快な説明をしています。確か、他の文献に引用されてる数(インパクトファクター)でもトップの方だったと思いますが納得です。

そういえば最近のキックブッシュ先生のツイッターを見ていても非常にエネルギッシュな感じがするので今後どうなっていくのか楽しみな分野になってきています。

冒頭では私自身をポジティブに捉える発言をしましたが、まだまだこの分野を追い切れていないので、授業もひと段落ついてきたことですし自分の研究をがんばります。




Nutbeam, D. (2000). Health literacy as a public health goal: A challenge for contemporary health education and communication strategies into the 21st century. Health Promotion International, 15, 259-267.[1]



2013年12月2日月曜日

WHOのThe solid factsによるHealth Literacy-Social media and mobile health-

看護情報学特論ⅡでWHOのThe solid facts Health Literacyを読んでいます。
これは今までにも紹介してきたEuropean Health Lieracy Surveyの結果を受けて、その調査のボスとも言えるKickbusch先生やPelikan先生らが編集し、今年発行されました。

今回はこの中でテーマの1つになっているSocial media and mobile healthについてのメモです。



文頭では、

保健医療に関わる組織は、孤立したウェブ上の島になっている〝読むだけ″の情報ポータルをとりあえず作ってはそこに人々が訪ねてくるのを期待するより、人々がすでにいる(ソーシャルメディア上の)オンラインへ向かうべきである。 

というMaged N. Kamel Boulas先生の言葉を載せています。
訳が下手なのであれですが、とにかく受け身になるなということでしょう。
何もしなくても人が集まるというのは普通の市場に存在する企業ではありえません。
そのように考えがちなのがやはり医療で、次いで教育などでしょうか。

ここでは最初にWhat is known(分かっていること)として5項目挙げられていますので順に紹介します。


1. ソーシャルメディアは、利用者が健康に対する適切な意思決定をするために必要な健康情報やサービスを入手し、検討し、理解する力を潜在的に向上させることができる。 

ソーシャルメディアの強みとして常に言われているのがバイラルソーシャルマーケティングです。
これはもともとはバイラルマーケティングという言葉で、意図的に口コミを広めることで、コストを抑えながら宣伝するというマーケティングでした。この口コミという手法とソーシャルメディアが相乗効果を持って組み合わさったのがバイラルソーシャルマーケティングだと言えます。

他のマーケティングと比べてより多くの人に、より早く、かつ最低限のコストで及ぶこのバイラルソーシャルマーケティングは、健康教育やヘルスプロモーションにおいて重要な役割を担います。
この文献ではトルコにおけるコンドーム利用の促進にうまく使われたと述べられています。

この例からすると、確かに必要な情報やサービスの入手にはつながりますが、検討や理解というところまで向上させているのかというのは私の疑問です。
ソーシャルメディアによって検討や、理解という力を潜在的に向上させる可能性があるとすれば、それはその情報の受け手が様々な情報に晒されて、それらの取捨選択をしていく過程で学習が行われていくのかなと思います。

ただし、行動経済学の世界では情報量が増え、意思決定するのが複雑になるとデフォルト(あらかじめ決まっているもの)となっている選択肢を選択したり、考えるのをやめてしまうというようなことも言われているので情報に晒されることが学習になるとはやはり一概には言えないかもしれません。


2. オンラインソーシャルネットワークや参加型(participatory)コミュニケーションメソッドはピアサポートにとって貴重な機会を提供することができる。

出ましたPatientsLikeMe。peer to peerの話ではやはりここが取り上げられます。
実際、この文献でもclassic(典型的、伝統的) exampleとして紹介されています。
これは様々な疾患を持った人たちのSNSで、お互いに情報を交換したり、自分と同じ疾患を持った人の経験を知ることができます。 
これを使うことで認知的なベネフィットを得たり、セルフマネジメントが向上すると報告されています。

ここでは他にもTeen2Xtremについて紹介されていました。
Teen2XtreamはUCLAの公衆衛生大学院や、医療保険、プログラム、機関などを扱うHealth Netなどによって運営される10代のヘルスリテラシー向上を目的としてたSNS型のサイトです。この紹介スライドが下です。

3. モバイルソーシャルウェブは今や、健康を含むほぼどんなトピックでも網羅するアプリの共有や評価、おすすめ、検索を可能にしている。


スマートフォンやタブレット、最新世代のOS、ブラウザはソフトウェアのダウンロードやインストールを楽にし国民的なものにしました。
この例としては、イギリスのNHSが提供するモバイルアプリは2011年5月に公開されてから6ヶ月間で、信頼できる健康アドバイスを求める1億人以上の人によってダウンロードされました。

調べてみたところそのアプリがこちらのNHS Health and Symptom Checkerのようです。iPhoneとAndroid両方に対応しており、2013年9月の時点でアップデートされています。ネット上のホームページもそうですが、こういったアップデートは非常に重要であり、その信頼性にも関わってくるものだと思います。
ところでこのNHSですが、ちょうど1年前の2012年12月から「NHS choices health apps library」をローンチしています。 様々な種類のアプリがその有益性をきちんと評価されて集まっています。面白いですね。

4. スマートフォンとそのアプリは急速にかつ根底からヘルスケア、特に慢性的な状態にある人々のケア、を変えている。

このことはヘルスケアが、必要性という点でより流動的になり、全ての関係者の参加(engaging)によってより参加型になることを可能にしていると述べています

また多くの専門的な医療のモバイルアプリはヘルスケアのコストを下げ、臨床的アウトカムを向上させるのに十分な力を持っており、現在、この種のアプリの人気増大と範囲の拡大を考慮してアメリカのFDAは監督の対象となるアプリの枠組みをガイドラインにすることを提案しているようです。

ここではアプリの例としてPlain-language medical dictionaryを載せていました。
これは医療用語を日常的な言葉に変えてくれるものです。
これはWeb上でもiPhoneアプリとしても利用可能です。

医療や健康に関するアプリを検索すると本当にたくさん出てくるのですが、どれがエビデンスに基づいていて使えるものなのか判断するのはこれもまた難しい問題になりそうです。
デザインだけ見るとどれも使ってみたくなるようなデザインですし、ほとんどのものが無料です。
無料ならとりあえずダウンロードできてしまうので、今後医療や健康に関するアプリの利用についてもデータをとって明らかにする必要がありそうです(ランキングからある程度わかるようにデータ自体はあると思いますが)。


5. ソーシャルメディアは他の伝統的メディアより高いリスクをとる。

ここではソーシャルメディアのリスクについて触れています。
言われているところが、ソーシャルメディアの世界では誰もが情報を発信できるという点で、misinformation誤報やdisinformation意図的な誤報が広まるということが挙げられています。
こういった事実ではない情報が普及することをthe water ripple effect(日本語では何でしょうか。さざ波?波紋?効果)として急速に広く普及すると説明しています。

この問題はもっともなことで、だからこそ最近ではリテラシーが問われるということが増えているのですが、伝統的メディアよりリスクを取っているというのはどうかと思います。
確かにテレビや新聞などでは、一般的にモラルが低いとされるような情報であったり、明らかな嘘が流されることは基本的にはないと思います(かつてある健康番組でデータのねつ造というようなっこともありましたが…一般論的に言えばメディアはBPOなどによって放送倫理なども問われていますし第三者のチェックが入ります)。

それでもやはり私にとって伝統的メディアの怖いところは、明らかに情報操作が働いているところです。偏った見方を一方的に与えられるだけの方が私にはリスクに思えます。
そういえば最近の研究会の輪読でもagenda setting議題設定効果の話があったのを思い出しました。ただここではメディアの話はこのへんにしておきます。

もちろん伝統的メディアだからこその利点もあるのでどっちがいい悪いの話にはなりませんが、ソーシャルメディアには高いリスクというのは言い過ぎかなと感じます。
ただしなんでも新しいものは批判されるというのが世の常です。


以上の5つに続いて、次にWhat is known to work – promising areas for action(うまくいくためにわかっていること―活動に前途有望なエリア)として3項目取り上げられています。


1. 信頼できるソーシャルメディアチャネルの創造

信頼できるソーシャルメディアの創造によって多くの質の高い情報を広めることができる一方で、消費者は批判的な情報の評価や情報の探し方を学ぶことができます。
ここではその信頼できるソーシャルメディアチャネルとしてNHS Choicesを取り上げています。


2. 監視と抑止

ソーシャルメディアでは自由に投稿やコメントができるべきであり、それが本質であるが、定期的に監視と抑止が行われるべきとしています。
特にアカウント所有者はパスワードなどで自分を守る必要があります。
また運営組織も規制やガイドラインを敷き監視する必要があります。
こういった作業は非常に骨を折るものですが、オンラインコミュニティのリーダーとなる患者や(expert-patient)一般の人を育てることでファシリテートできるようになります。


3. 受け手に適したチャネル

ソーシャルメディアの内容や利用メディアの選択はターゲットの属性や意向、読解力のレベルにあったものを選ぶ必要があります。
また計画の段階からそのサービスの評価までターゲット集団の代表者に参加してもらうことが重要です。そしてテキストだけでなく、インタラクティブなゲームやライブセミナーなどの様々な方法を考えていく必要があります。



以上がSocial media and mobile healthの内容になります。
もう少しヘルスリテラシーとの関連で話が進むかなと期待していましたが(ある意味、話の内容の全てがヘルスリテラシーに関わっているのは確かですが)、ほとんど今までにもあったような総括となっています。
European Health Lieracy SurveyでもそこまでネットやモバイルといったeHealthを意識した質問紙になっているわけではないのでそこまで新しいことを述べることはないかなとは思っていましたが、ちょっと残念です。
ただ、このエリアは今後多くのエビデンスが増えていくのだと思います。
最近もPubMedではmobileやネットとヘルスリテラシーの関連を見ている文献が出ていました。
今後に期待しながら、私もがんばります。

2013年11月21日木曜日

健康の社会的決定要因としてのヘルスリテラシー

昨日は研究会で研究発表の担当でした。
はじめに反省として、もっと研究について意識を持つこと。
なんとなく調べているだけだと「何をしてきたのか?」と問われた時に
答えられませんし、つまりそれは何もしてなかったということになります。

今年の研究会の最後の発表でも研究について発表しますので、(12月18日水曜日18時から聖路加看護大学で行われますのでご興味のある方はぜひご参加ください。)
この1ヶ月は頑張っていきたいと思います。
頑張るためのモチベーションは忘年会です。

昨日の私の発表はおそまつなものだったのですが、
先生のお話や、他のメンバーのディスカッションからヘルスリテラシーの現状について体系的に学ぶことができました。そこをメモしておきます。
私の理解に基づくので間違っているところや解釈を間違えているところもあるかもしれませんが…


ヘルスリテラシーという言葉が使われるようになってから多くの尺度が開発され利用されてきました。
特に最初の頃は医療におけるlow health literacy患者をスクリーニングする尺度(やテスト)が開発されてきました。
Nutbeam先生の言葉をお借りすれば[1]、
日常生活場面で効果的に機能するための読み書きの基本的なスキルである「機能的ヘルスリテラシー(functional literacy)」によってスクリーニングするものになると思います。

そして最近では医療場面重視のへルスリテラシーから、公衆衛生学的な面を重視したヘルスリテラシーへの関心が高まり、より包括的な尺度を開発しようとする流れがでてきました。

では公衆衛生学的な面を重視したヘルスリテラシーとは一体何でしょう。
これは、ヘルスリテラシーが個人の能力としての位置づけから、健康の社会的決定要因の一つとして言われるようになってきたことによります。
ヘルスリテラシーが健康の社会的決定要因であるならば、ヘルスリテラシーが低いということは自分の能力不足というよりはその周りの環境に原因があると捉えるということになります。
つまり、ヘルスリテラシーを測ることで、その人の環境を測ることができるということです。

最初の頃は、ヘルスリテラシーを測ることで、ヘルスリテラシーが低い人には何か介入を行いその人のヘルスリテラシーを上げようとするのが目的にされていましたが、(私もそのような研究ができればなと思いながら修士へ入学しました。)現在では、その人への介入よりも周りの環境への働きかけを重要とする動きがあります。もちろんその人への介入も重要なことに変わりは無いと思います。
こういった動きから公衆衛生学的な面を重視したヘルスリテラシーが叫ばれるようになり、実際に包括的な尺度を用いることで測ろうとしています。

ここでヘルスリテラシーをもっと簡単に言ってしまえば、
健康教育のためのツールというよりは、社会環境を整えるためのツールになるということです。
しかもヘルスリテラシーというのは他の社会的決定要因と比べたとき、例えば、貧困という問題を変えるというのは実際には難しい問題となっていますが、ヘルスリテラシーはもっと変えることができるものになっています。

また、高いヘルスリテラシーを持っているということは、私たちはその社会環境を整えるために働きかけることができるという力を持っているとも言えます。これはエンパワメメントとの目指すところでもあります。もう一度Nutbeam先生の言葉をお借りすれば、これはより高度な認知的スキルであり、社会的スキルとともに、情報を批判的に分析し、この情報を日常的な出来事や状況をよりコントロールするために使用することに適用される「批判的ヘルスリテラシー(critical literacy)」にあたります。を基にした、健康を決定している社会経済的な要因について知り、社会的政治的な活動ができる能力である批判的ヘルスリテラシーです。(8/11修正)
私たちはこの批判的ヘルスリテラシーを高めて行く必要があります。

ディスカッションではヘルスプロモーションという言葉が流行らなかったことによるヘルスリテラシーという言葉の代用や、政治的な問題についても話しました。
ヘルスプロモーションとヘルスリテラシーという言葉の問題では、“new wine in old bottles”(Tones, 2002)という言葉があるのを思い出しました。うまいですね。
また、ヘルスリテラシーという言葉にしては中身がでかすぎるのではという意見も出ましたが、ヘルスリテラシーはリテラシーとして自分が健康になるために最低限必要なものと考えるとなるほどと思います。

これは個人的に思ったのですが、ヘルスリテラシーを日本語にするなら何がいいのでしょうか…“健康を決める力”ですかね(単に健康を決める力というサイトを宣伝してみただけです(笑))。

最後に、話を現場レベルにすると、このヘルスリテラシーの働きかけをプライマリケアなどによって行っていく流れがあるそうです。また実際にイスラエルの国単位でも取り組みなどもあるようです。今後追っていきたいと思います。



とにかく私は研究を進める上でもヘルスリテラシーそのものを理解することが急務です。
どのような背景があるのかを知っているかというのは論文を読んだ時の理解にもかなり関わっていると思います。頑張ります。

[1]Nutbeam, D. : Health literacy as a public health goal: a challenge for contemporary health education and communication strategies into the 21st century. Health Promotion International, 15(3), 259-267, 2000.

2013年10月28日月曜日

第72回公衆衛生学会② 

前回に続き公衆衛生学会の参加報告メモです。
さすがは公衆衛生学会、本当に様々なテーマで発表、議論が行われていました。
多くのポスターやビッグデータに関する公演を見たのですが、ここではヘルスリテラシーに関わる所をメモしておきます。



直接ヘルスリテラシーが言及されることは無かったのですがシンポジウムの

   健康日本21(第2次)の新たな課題~健康格差の縮小を目指して~

は興味深く聞いておりました。これは健康日本21(第2次)の策定に関わった5名の方に、健康格差の縮小をテーマとして発表してもらうものです。

話の内容としては、
厚生省の河野先生は健康日本21(第2次)では健康寿命の延伸と健康格差の縮小が方針として示されたことに触れ、健康格差を地域格差の点からお話されていました。
国として、地域ごとの健康格差対策への取り組みのモニタリングが重要で、そして実態把握をすること、その背景の要因分析を進めることで今後の課題と対策を明確にしていくとのことでした。
藤田保健衛生大学の橋本先生はこのことに加えて健康寿命の点から具体的なお話をされていました。
続く3人の方も栄養、循環器疾患、口腔といった点から健康日本21の目標に向けたお話をされていました。この発表の中でいくつかの日本のコホート研究が取り上げられており、日本の大規模なコホート研究についてあまり知らなかったということを認識させられました。
疫学を勉強したのに具体的活動を知らないとはもったいないことです。
データを読むという意味でも調べて勉強する必要があると思います。
あとは、健康格差の話では避けて通れないであろう健康の社会的要因等が取り上げられていて面白かったです。

個人的にはヘルスリテラシーの話が出るかと期待もしていたのですが、その言葉は聞けませんでした(聞き逃しの可能性は否めないのですが…)。
ヘルスリテラシーは健康の維持や向上に重要な役割を果たし、健康格差の不確実な先行要因となりうると言われているように(Rudd, 2007; Lee et al., 2010, Paasche-Orlow et al., 2010)公衆衛生のゴールであり、健康の決定要因の一つとしての認知は高まっています。
もっとエビデンスが蓄積してくればこの場でも大々的に扱われるかもしれません。

ディスカッションの場では、地域格差に対して、地域は様々な特有の文化を反映しており簡単に是正できるものではないところがあるがどうするかというような鋭い指摘がありました。これに対してどのような答えだったか実はちゃんと覚えておらずメモしなかったことを後悔しているのですが、地域の特性も含めてまずは把握することが重要であるというような感じだった気がします(ごめんなさい、当てにしないでください)。


話は変わりまして、もう一つの話題をメインシンポジウムの

   変革期の公衆衛生学とヘルスコミュニケーション

からご紹介します。
座長の一人は日本のヘルスコミュニケーション領域でも有名な中山健夫先生です。私がまだ学部生の頃、大学院進学を考えている時に京都大学で一度お話させてもらったのですが、私のとりとめの無い話を非常に丁寧に話を聞いてくださったことを覚えています。中山先生もシンポジストの一人としてヘルスコミュニケーションについて分かりやすくお話しされていました。

このシンポジウムの話としては妊孕能や認知症についての具体的な話がありました。特に座長のもう一人である大東文化大学大学院の杉森先生は妊孕能に関するリテラシースケール(Cardiff Fertility Knowledge Scale : CFKS)とHLS14(後述)の相関を見るなど興味深い研究をされていました。また杉森先生はSorensen先生のヘルスリテラシーの統合概念モデルに触れるなど、私には非常に関心の高い所をお話されていました。具体的にTeachbackなどについても触れていました。

さて、先ほどのHLS14ですがこれは14-item health literacy scale for Japanese adultsのことです。
これは私が一番楽しみにしていたシンポジストである須賀万智先生らが開発したものです。
須賀先生はヘルスリテラシーについて丁寧に説明されていてとても分かりやすかったです。
説明の中でNutbeam先生によるヘルスリテラシーの分類を取り上げており、ヘルスリテラシーをリスクファクターとして捉えることによる入院などのアウトカムという考え方と、ヘルスリテラシーを資産として捉えることでヘルスリテラシーそのものがアウトカムになるという対峙を明確に述べていました。

私もこの点については文献を読んで勉強したつもりでしたが、先生のお話でスっと落ち込むような感じがありました。同じ文献を読んでいても吸収する度合いが全く違うのだろうなと痛感したのですが、これは私がもっと努力していくしかありません。

先生の話の後半はHLS-14についてです。
もともと日本でヘルスリテラシーの尺度として有名なものは石川先生らの開発した糖尿病患者のヘルスリテラシースケールがありました。しかし、患者ではない一般集団に対するより包括的な尺度開発のためにそれを発展させましました。
実際にHLS-14を用いて研究を行うと、HLの高い人の方が健康医療情報を収集する情報源が多かったり、治療上の意思決定にも主体的に参加したいと考えているということが明らかになったとのことです。

HLS-14は世界的に見ても様々な文献で取り上げられています。
尺度開発に興味が出ている私はHLS‐14についても勉強する必要があるなと感じました。
この尺度はどのように作られているのか、他の尺度との違いは何か。
私が研究を進めていく上でHLS-14が優れているものであればそれをお借りして研究することもできます。別に尺度を開発する必要があるのであればそれはなぜか、この点は明確に言語化できないといけないところでしょう。



以上が公衆衛生学会参加報告のメモでした。
自分の考えを見つめるのにも大変重要な機会となりました(学会に限らずその後のお酒の席もそうでした(笑))。
11月は研究会において研究の発表があるので進めていかなければなりませんし、いいモチベーションにもなりました。
ただし、心残りは発表をしなかったことです。
知人の方々が発表されている姿にはやはり刺激されます。
来年は発表したいです。というかします。
そうすると抄録の提出が5月位だったと思いますが時間が…頑張ります。

2013年10月27日日曜日

第72回日本公衆衛生学会① ~Kawachi先生講演~

10月23日から25日まで三重県で開催された公衆衛生学会に参加してきました。
その一部(Kawachi先生による講演の)メモです。



参加にあたって最初の注目はやはり、Harvard School of Public HealthのIchiro Kawachi先生による基調講演です。
先生の本や文献は読んだことがありましたが、実際に公演を見るのは初めてなので楽しみにしておりました。

いざ会場へ行くと大ホールにはすでに人であふれており、さすがKawachi先生です。
話は健康の社会的決定要因のお話です。
社会的決定要因については日本でもかなり議論されるようになってきたと思います。
今回の公衆衛生学会でもテーマとして様々な所で取り上げられていました。

その社会的決定要因について先生は行動経済学の観点からのお話をされていました。
導入としてアメリカの肥満の話から入り、いくつかの研究とともに紹介されました。
特に面白かったのはその中の一つ、映画館でポップコーンを使った研究のです。

映画館で映画を見る人に対してランダムに小さいカップに入ったポップコーンと大きいカップに入ったまずいポップコーンを二つのグループを作ります。
ここで重要なのはまずいという所でしょう。単純に考えて、それが美味しかったらあるだけ食べてしまうと考えられますが、まずいということはカップのサイズに関わらずどちらのグループも同量食べて後は残すと考えられます。もちろん個人差はあれどグループとして見たときにそうなるだろうということです。
結果は大きいカップに入ったまずいポップコーンを渡された人のほうが小さいカップに入ったまずいポップコーンを渡された人と比べて明らかに多くそれを食べていたということです。
つまりここから言えることは、私たちは、目の前にあるものを食べてしまうということです。
どれ位の量を食べようかという私たちの意思決定は与えられたポップコーンの量に依存しているのです。

研究者としてこれに興味があるのであればちゃんと文献を確認すべきだと思いますが、このような話は様々な事例で報告されているのである程度のエビデンスは蓄積しているのではないでしょうか。また、個人的に行動経済学的な話に興味がある方にはTEDのDan Arielyの公演を見ることをおすすめします。

先生は、このような観点は政策を考えるのに必要であるとし、人の関心に関する研究も紹介されていました。募金を促すのに、人の顔が見えるポスターというのは、実際の難民の数などの数値が事細かに入った説明書きより明らかに有効だというものです。面白いのは二つの合体よりも顔だけの方が有効だということです。なぜでしょう。感情と論理では感情が重要となる場面があるということです。
日本の公衆衛生学的なアプローチはそういった点はなかなか考えてきませんでした。
それでも少しずつソーシャル・マーケティングといった考えも出てきて、今後もっと積極的になることに期待したいです。

話の最後は早期教育の重要性についてウォルター・ミシェル先生のマシュマロテストについて取り上げお話されました。
このテストで我慢できる子は14年後の対処能力や学力と相関があったのです。
他にもペリープログラムなどを挙げ、早期教育によって身につく忍耐力は将来の健康行動につながるとのことです。
コストという面で見ると、確かに初期投資が大きくなるのですがその後の社会にかかる費用が抑えられ結果的には利益になるとされています。
この点についてはノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者であるジェームス・ヘックマンの論文もあります。



以上がKawachi先生のお話でしたが、先生のお話は学際的でとても面白いです。
日本では学際的という言葉を使いながらも実際は独立しているということが多くあります。
公衆衛生学というすでに広い学問のはずの中でもやはり相互作用が起こりにくということを感じます。
そういえば以前、研究会の輪読でシステムに関する話を扱ったのですが、システムの定義に相互依存や相互作用といった言葉がありました。
その意味では公衆衛生学に限らず日本の学問はまだシステムとしての体系になれていないのかもしれません。

書き足しでもう一つ、今年の11月からKawachi先生のオンラインコースが無料で受けられるそうです。edXのこちらで受けられるようです。
これはぜひ受けてみたいと思います。

本当は学会参加報告で1つのエントリを書こうと思っていたのですがKawachi先生の話だけで書きたいことがどんどん増えてしまったので、また別に学会についてのエントリを書きたいと思います。

2013年10月22日火曜日

ヘルスリテラシーと社会的要因の関連性

今回もthe European Health Literacy Survey(HLS-EU)に関する文献からです。
Health literacy of Dutch  adults: a cross sectional survey[1]
論文はこちら


■背景
ヘルスリテラシーの概念への関心は、保健医療の中の市民とヘルスケアが持つ役割と責任に対する強調を伴いながら増してきた(Kickbusch & Nutbeam, 2000; Nutbeam, 2000; Chinn, 2011)
多くの研究によって研究課題としてのヘルスリテラシーの重要性は指摘されており、ヘルスリテラシーは健康の維持や向上に重要な役割を果たし、健康格差の不確実な予測因子になる可能性があると言われている(Rudd, 2007; Lee et al., 2010, Paasche-Orlow et al., 2010)。

・ヘルスリテラシーの定義と範囲の議論
この議論は二つのアプローチに分けられる。
→‘clinical(臨床的)’ approachと‘public(公衆衛生的)’approach
この違いは、保健医療内の患者の能力であるか、患者や医療を超えた(例、職場、政治、家)公共への働きかけによる概念の拡大にある。

ほとんどの研究は臨床的視点に基づいている。
公衆衛生的視点の研究としてHLS-EUsurveyの実施。

・研究目的
ヘルスリテラシーに関して構築されている理論的知識に寄与すること。
それによって一般集団のヘルスリテラシーに対する先見的な洞察を得て、人口統計学特性や社会経済学的特性との関わりを調査する。
人口統計学的特性や社会経済学特性とヘルスリテラシーの関係に対する的確な洞察は、健康状態にリスクを持ちヘルスリテラシーが不十分である立場の弱い(vulnerable)集団を明らかにすることにつながる。


・リサーチクエスチョン
1) 成人は各領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)において、ヘルスリテラシーの能力である健康情報の収集、理解、評価、適応にどの程度難しさを認知しているのか
2) この能力は人口統計学的特性や社会経済学的特性とどの程度関連があるのか。
■方法
・研究デザインとデータ収集
オランダの15歳以上の人に対して層化ランダムサンプリング
―人口数と密度に比例した包含確率(a probability of inclusion)にするために、都市部と田
  舎に応じ た州内部と州での層化

家庭はエリア内でランダムに選択され、電話やメールによって各家庭から1人をバースデイルール(家族の中の15歳以上の人で誕生月が早い人が対象となるものでしょうか)のようなものでリクルート。
2011年の7月にリクルートされた人に対面で質問紙を渡し実施。2817人のうち、1794人は参加意思がなく1023人(36%)が対象となった。25歳以上の人だと収入や教育、社会的地位に関して回答が安定することから分析対象を25歳以上とし、最終的に925人の成人が対象となった。

・変数の評価
ヘルスリテラシー
前回のエントリで取り上げた尺度開発の概要なので詳細は割愛しますが、引用文献にThe development and validation of the European health literacy survey(hls-eu)[2]という論文が挙げられていました。アブストを読む限り前回エントリの尺度開発の文献と似た内容ですが、以前から尺度開発の論文が出ているとは知りませんでした。すぐに読みたいと思います。

質問項目47項目:
(a)情報の収集能力に関する(13項目)
(b)情報の理解能力に関する(11項目)
(c)情報の評価能力に関する(12項目)
(d)情報の適応能力に関する(11項目)

回答カテゴリは4件法のリッカートスケール:
1=とても難しい(very difficalt)
2=まあ難しい(fairly difficult)
3=まあ簡単(fairly easy)
4=とても簡単(very easy)
“分からない”という選択肢は与えなかったが、回答者がそのように答えた時に使われ、欠損値として記録。

得られた回答は能力ごとに合計し、非常に難しいと感じている人とあまり難しいと感じていない人に分けた。4つ全ての能力で得点が最も低い回答者(収集、理解、評価、適応に対して第一四分位数より低い人)は非常に難しいと感じていると分類し、得点が最も高い回答者(第三四分位数より高い人)はあまり難しいと感じていない人とみなした。
これと同じことを全ての領域としてだけでなく、各領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)ごとにも行った。

人口統計学的、社会経済学的特徴
以下の人口統計学的特性や社会経済学的特性を分析:

年齢→連続変数
教育水準→1)教育無し、または初等教育、2)中学校教育、3)高等学校教育、または中等教育(中学・高校教育)を受けた後、高等教育(大学)を受けていない(専門学校の人などが当てはまる)、4)大学教育以上
一ヶ月の世帯所得→10点満点スケール 分析においては四分位数:1)1850ユーロ(日本円で25万円弱位?)より低い、2)1850-2400ユーロ、3)2400-3600ユーロ、4)3600ユーロ以上で記録
社会的地位→社会的地位の認知(自己記録による変数) 1(最も低い社会階層)-10(最も高い社会層)の間で選択。低い(1-4)、中間(5、6)、高い(7-10)の連続変数

・統計解析
質問紙の信頼性と内部一貫性を検証するためにプロマックス回転を用いた主成分分析(論文にこのデータは載っていません)を行い、クロンバックのαを計算。
質問項目(収集、理解、評価、適応)の内部一貫性は十分であった(それぞれのクロンバックのα=0.84, 0.83, 0.85, 0.87)
※ただし、この後の結果を示す表を見ると収集能力に関する質問が13から11に、適応能力に関する質問が11から9に減っているので、内部一貫性を高めるために削除したと考えられます。

因子分析の結果、定義した領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)に従って、収集、理解、適応の能力に対するヘルスケア因子、疾病予防因子、ヘルスプロモーション因子に分けられた。
評価能力に関しては、因子分析では2つの因子を特定し、それらを‘ヘルスケアと疾病予防’、‘ヘルスプロモーション’とラベル化し、ヘルスケアと疾病予防におけるヘルスリテラシー測定のためにデザインした項目を結合した。

合計得点と各項目の平均値による記述統計は最初のリサーチクエスチョンの答えになる。
2つ目のリサーチクエスチョンに答えるためにヘルスリテラシーと人口統計学的、社会経済学的特性の関係に関して多重回帰分析を実施した。

欠損地
欠損地に対して、多重代入法MICE(Multiple imputations by Chained Equations)を用いるが、完全にMAR(missing at random:ランダムに起こる欠損値で、欠損する値の大きさ自体はランダムで、欠損が起こることは他の変数で影響を受けているもの)というわけではない。
全体の分析の結果を得るためにRubine's ruleに従う(Van Buuren, 2012)
これはバイアスが少なく、欠損値を扱う最新の方法とされている。

■結果と考察
結果に関しては記述するより表を見たほうが早いので…
Table4 Descriptive statistics per health literacy competence and domain(N=925)[1]

各領域の項目の平均値はおよそ3(easy)に近いです。結構高いですね。
一番低いのがAccessのヘルスプロモーションで2.6です。ヘルスケアや疾病予防より低くなるのは感覚的に分かる気がします。
逆に一番高いのはUndestandingの疾病予防とApplyingのヘルスケアで3.6です。疾病予防の情報が理解できるということ、医療場面において情報を適応できるということです。後者に関してはこんなに高いのかと感じましたが、質問紙の方で質問を確認してみると病状に関する医師からの説明を意思決定に使えるか、処方箋に関する指示に従う、緊急時に救急車を呼ぶ、医師や薬剤師に従うといった明確で分かりやすい質問であることを反映している気がします。

ヘルスリテラシーと人口統計学的、社会経済学的特性の多重回帰分析の結果についても…
Table5 Associations between socio-economic and demographic characteristics and healrh literacy competences[1]

ちなみに2変数の単回帰では一貫した関連はなかったようです。
多重回帰(Table5)で見ると、いくつか関連が見られます。
全体を見渡すと、ヘルスケアと疾病予防における人口統計学的、社会経済学的特性とヘルスリテラシーの関連性は似ている気がしますが、ヘルスプロモーションでは全く違った関連性を表しているように見えます。

ヘルスケアに関して表を横に見れば、教育はAppraising以外で、社会的地位は全てに関連性があります。
疾病予防ではAccessing、Understandingにおいて全く同じ関連性です。教育、所得、社会的地位、年齢、性です。

ヘルスプロモーションでは社会的位地位や年齢が多く関連しています。

見ていて思うことは情報が多く一つ一つ解釈するのが難しいです。
ヘルスケアと疾病予防において年齢が上がると難しさが増加していることから、これはパソコン媒体の利用を反映してるのかなと思いましたが(高齢者の方が利用へのハードルが高いと考えられる)、ヘルスプロモーションの所では逆の結果になっています。

これらの解釈を進めていくためにも今後はもっと質問項目を吟味していく必要がありそです。

性に関して見ると、ヘルスケアと疾病予防の領域において女性の方が男性より情報に対する難しさを感じていないようです。

■限界
今後の研究ではさらにモチベーション等の変数が必要になる。
高齢者の対象者が多いように国のサンプルの代表性を確保していない。だが実際には大きくアウトカムには影響していないようである。
etc.



先ほども述べましたが、今後結果の解釈をもう少し吟味していくためにやはり質問項目の検討を進めたいと思います。
特にヘルスプロモーションの領域におけるヘルスリテラシーとの関連性は今まで無かった取り組みなので気になるところではあります。
そういえばHLS-EU-Qには47項目版に加え、16項目版と86項目版もあるようでそこら辺の文献もあれば読みたい所です。
追記H25/12/4→86項目版とはヘルスリテラシー項目47項目と社会的要因39項目(NVSを含む)のことで、今回の研究ではそ47項目とその一部または86項目版を利用しているようです。

[1]van der Heide et al.: Health literacy of Dutch adults: a cross sectional survey. BMC
  Public Health 2013 13:179.
[2]Fullam J, Doyle G, Sorensen K, Van den Broucke S, Kondilis B: The development
  and validation   of the European health literacy survey (hls. eu). Ir J Med Sci 2011,
  108:225–226.



2013年10月19日土曜日

HLS-EU-Qの開発プロセス

European Health Literacy Survey(EUの8カ国による調査)の際に開発された尺度、HLS-EU-Qの尺度開発の文献[1]が出ていました(先生からのアナウンスで知ったのですが)。
文献はこちら
授業でもこの文献を取り上げて勉強していますのメモします。
尺度開発の勉強になりますが、まだまだ知識不足、英語力不足、そもそも勉強不足を痛感しております。



■背景
導入冒頭ではNutbeam先生の定義(2000)を取り上げ、ヘルスリテラシーのへの関心の高まり、そして尺度への関心の高まりを述べています。

続いて既存のヘルスリテラシーの尺度を取り上げています。その上で既存の尺度の大きな欠点として次のように上げています。
ヘルスリテラシーに関連する側面を捉えられていないこと、概念の限られた要素にしか焦点が当たっていないこと、集団としての側面を除いて個人の特性に焦点を当てていること、定義と概念位対してあいまいな関係であること、ヘルスリテラシーによる因果関係に弱い関係しか示していないこと(Jordan, Osborne, and Buchbinder, 2011)。

そしてヘルスリテラシーの包括的な測定は次の属性を反映すべきとしています。
検証可能な理論や概念枠組みに明確に基づく;複合的な概念領域や実際的な構成要素を持つ構成概念としてのヘルスリテラシーの理論を反映するために、内容や方法論において多次元的である;複合的な方法を使う;コミュニケーションとヘルスリテラシーを明確に区別する;測定は根底的な理論や概念枠組みによって描かれる概念領域からサンプリングされた多数の項目を含むべきであるという理解のもと、ヘルスリテラシーを潜在的な構成概念として扱う;公衆衛生的(public health)な行動やアウトカムを研究するために、測定は臨床場面に特化すべきでないという理解のもと、適合性の原理を守る;文化、人生、人口集団、研究場面を含む文脈において比較を可能にし、等しくある;社会研究や公衆衛生への利用を臨床場面に対して優先させる(Pleasant, McKinney, and Rikard, 2011)。

HLS-EU-QはこのPleasant先生らの原理を用い、そしてこのブログでも何度か取り上げたSorensen先生らが開発した定義と概念モデルによって開発を進めています。

・目的
人口集団におけるヘルスリテラシーの概念に基づく多元的、多国的、学際的、包括的測定を目的として、ツールの項目開発、プリテスト、フィールドテスト、外部コンサルテーション、言語のチェック、尺度翻訳に関して行われた構造的で体系的なアプローチの詳細なアウトラインの呈示。
それによりHLS-EU-Qをデザインすること大規模な発展過程に対する洞察を提供し、後の利用や承認に対して有効的にする。
―開発過程における実施された各段階に対する方法の説明
―その次に各段階に対する結果
―最終的に、開発過程とHLS-EU-Qの属性を本質と制限という点から議論


■方法
・Applying a concept validation approach
Pleasant et al.(2011)の原理に沿って、HLS-EU-Qの開発は概念妥当性アプローチ(concept validation approach) に従う。
デザイン過程はSorensenら(2012)のヘルスリテラシーの定義と概念モデルに基づく。
Questionnaire development 
概念モデルから始まり、論理的で体系的かつ構造化された開発過程を経て、定量的方法に加え定性的方法を含む次の8つの段階を含む(おそらく上の「Applying a concept validation approach」が1つ目の段階に含まれます。): 

・Item generation
項目を開発するためにデルファイ法を利用。

・Focus groups
表面的妥当性の検証
―参加者と各グループによる質問紙のデザイン、明瞭性、内容に関するフィードバック。
―便宜的サンプリングにより実施。一般的な市民スキルに加え健康や、さらにはヘルスリテラ
  シーに関する知識を持った参加者―参加している3つの大学からスタッフと生徒を含む。
・Pretesting
フォーカスグループにより修正したものを二カ国(アイルランドとオランダ)でフィールドテスト。
各国で50のコンピューター補助による対面インタビュー。
有意選出法 により実施。
不適正な手続きがあった1インタビューを除き上99のインタビュー。
インタビューの所要時間としては25分~90分。

データ分析に関する方法論的アプローチ
―質的分析…ログブックと観察によるデータとコメントやフィードバックの吟味
―量的分析…項目分析、主成分分析、信頼性分析

項目分析→弁別力の低い項目を除外するために各項目に対する反応分布の吟味(同カテゴ
        リーにおける95%以上かそれ以上の解答)。
主成分分析→各領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)に対して個別に分析。
      情報の4つのプロセス次元に関する4つに収斂した成分の数を持つ。
      バリマックス回転の実施。
      因子構造の検討とPCAの反復。
PCAによって得られたスケールの内部一貫性はクロンバックのαによって検証 

・Expert consultation
質問紙の技術的特性(スケーリング、項目のオーダリング等)に加え構成概念妥当性を評価するために、健康やヘルスリテラシーの専門家によるコンサルテーション。

・Finalisation of the questionnaire
具体的知識に関する質問のような客観的な質問項目は各国の文化的差異のために除外し自己記録項目へ。
リッカートタイプスケール とても難しいからとても簡単
・Plain language check
リテラシーの専門家による平易言語の検証。

・Translation
二人の独立した翻訳者が質問紙を英語から目的言語に翻訳。
専門家による二つの翻訳の評価。

■結果
・Item generation
初回デルファイ→合計136項目、ほとんどが自己記録陳述で5件法リッカートスケール。
次回デルファイ→43項目
・Focus group 
得られた意見
―構造→質問の順番を情報を扱う能力への焦点から領域への焦点へ、繰り返しの多さ。
―明瞭性→専門家バイアスがある。
―内容→(i)客観的質問や知識質問が難しすぎる。
      (ii)八カ国をカバーするほどの一般性が無い。
      (iii)社会的/文化的に受け入れられる答えを促す、回答者がプライバシー等の意見
       を共有するか、ヘルスリテラシーや社会経済的地位の質問に応じるか。
項目数を47項目へ。
・Field test
―質的分析
 長すぎる、包括的すぎる、繰り返しが多い、言語による専門家バイアス、時間がかかる 。
 似ている質問は統合。 
―量的分析
  項目分析→解答カテゴリで十分な変動(variation)がある、変動の少ない2つは削除。 
  主成分分析→ヘルスケアにおけるヘルスリテラシーを測る自己記録項目に対するPCAは4
          回の反復後、成分に分解され分散の59%。
          同様に疾病予防では分散の64%。
          ヘルスプロモーションでは分散の62%。
  クロンバックα→0.51から0.91。
            項目の少なさに敏感であることを考慮すれば得られた尺度は合理的に等
            質である。

・Expert consultation
得られた意見
(1)マネジメントに関する意思決定のための人の能力を見ることで質問紙の目的に忠実性を保つ。
(2)人々、患者に焦点を当て続ける。
(3)一般的なアプローチを維持する。
(4)デザインがシンプルである。
(5)明確な言葉を用いて専門用語を避ける。
(6)質問紙が簡単である。
・ Finalisation of the questionnaire
最終的に12のサブスケールに対して1スケールおよそ3~5項目を含む47項目の質問紙へ。
・Examination for use of plain language
the National Adult Literacy Agency in Irelandによる検証と修正。
・Translation 
英語をオリジナルとしアイルランドで利用。
ドイツ語はオーストリアでも利用。

■考察・限界
デルファイによって生まれた項目はヘルスプロモーションの領域で少ない。
多くの項目により部分的な合意になった。
フォーカスグループは3カ国、フィールドテストは2カ国のみ。
クロンバックのαに関して低いものがあり今後の研究が必要。
さらに広い代表性が異なる文化圏で質問紙を使うときに有効。
専門用語や根本的なパラダイムを手放す難しさ。
専門的な翻訳がプリテストの段階から行わるるとよい。
質と汎用性を高めるための研究が必要。



授業ではあいまいな理解になっているところをきちんと理解しようとまずconcept validation approachについて考えました。尺度開発の文ではよく見ますがこれはいったいどのようなアプローチなのか説明できなかったからです。
concept validation approachが論文の中でApplying a concept validation approachという見出しになっているようにconcept validation approachについての記述があるところを見なさいという示唆を先生から頂きました。
尺度を開発するにはまず、何を測るのかを明確にしなければなりません。つまり図るものの定義を明らかにするということです。そしてその定義にある概念は何なのか、その概念モデルを考える必要があります。方法の最初にApplying a concept validation approachが来ているように、concept validation approachによってこれから図るものを明らかにすることで、それにもとづき開発が進んでいきます。

次回の授業でも明らかにすべきところ扱うので、そこで学んだことはまた追記か、新しくメモしていきます。

[1]Sorensen K, Van den Broucke S, Jürgen M Pelikan, Fullam J, Doyle G, Slonska Z, Kondilis B, Stoffels V, Osborne RH, Brand H: Measuring health literacy in populations: illuminating the design and development process of the European Health Literacy Survey Questionnaire (HLS-EU-Q). BMC Public Health 2013, 13:948.

2013年9月30日月曜日

へルスリテラシー尺度の整合性を見る

久しく備忘録としてのブログをさぼっていました。
もちろんこの間に勉強したこともたくさんあるのですが、ついつい後回しにしてしまいました。
今日は私が9月18日の研究会でも発表したお話から一部分メモっておきます。
当日の発表内容は近日中に研究室のブログにまとめておきます。
(近いうちにリンクを張ります。)
2013年10月03日更新しました。2013年度第18回研究会(発表担当:松本)のブログはこちらからどうぞ。


最近、ある特定の集団だけを対象とするのではなく、一般集団のヘルスリテラシーを測る包括的な尺度として、以前このブログでもメモしたOsborne先生らのHealth Literacy Questionnaire(HLQ)(Osborne et al,. 2013)[1]や、EUのSorensen先生らによるHealth Literacy Scale(HLS‐EU)(この尺度開発に関して論文には出ていませんが、The Health Literacy Surveyから出ている"COMPARATIVE REPORT ON HEALTH LITERACY IN EIGHT EU MEMBER STATES"で見られます。定義に関するシステマティックレビューはHealth literacy and public health: A systematic review and integration of definitions and models.[2]が見られます。)があります。
そこでOsborne先生らのHLQとSorensen先生らのHLS‐EUの整合性を見ようと比較を行いました。この2つはほとんど同じような時期に開発されていますが、内容としてはどのような違いがあるのかを学びたいと思います。

HLQは一般集団や患者、専門家などからの調査を経て開発された9次元の44項目からなる尺度であり、HLS‐EUではヘルスリテラシーの定義のシステマティックレビューをもとに開発された12次元の47項目からなる尺度となっています。

HLQは1.保健医療の専門家からの理解や支援を得ていると感じること、2.健康管理のための十分な情報を持っていること、3.能動的な健康管理、4.ソーシャルサポート、5.健康情報の評価、6.専門家と協働する力、7.保健医療システムの利用、8.良質な健康情報を探す力、9.何をすべきかが十分に分かるような健康情報の理解、といった9次元になっています。

これに対してHLS‐EUではまずヘルスリテラシーの核となる能力として、情報のAccess/obtain(収集)、Understand(理解)、Process/appraise(評価)、Apply/Use(利用)とういう4次元に分け、さらにこれらを用いる3つの場面としてHealth care(医療)、Disease prevention(疾病予防)、Health promotion(健康の向上?)という場面を設定しています。結果、4(列)×3(行)のマトリックスの表ができ12次元となります。

この表(下図参照)を横に見て場面に分けたヘルスリテラシーをそれぞれ、Health Care Health Literacy(HC-HL)、同様にDisease Prevention Health LIteracy(DP-HL)、Health Promotion Health LIteracy(HP-HL)、最後にこれら三つを合わせたものをGeneral-Healt Literacy(GEN‐HL)としています。

この12次元の表にたいして、HLQの9次元がどのように当てはまるかというところを見てみると(私の独断と偏見によりますが)、







.

Access/obtainUnderstandProcess/appraiseApply/use
.
Health care7.Navigating the healthcare system 8.Ability to find good health information9.Understanding health information well enough to know what to do5.Appraisal of health information3.Actively managing my health
.
Disease prevention7.Navigating the healthcare system9.Understanding health information well enough to know what to do5.Appraisal of health information3.Actively managing my health
.
Health promotion7.Navigating the healthcare system 8.Ability to find good health information9.Understanding health information well enough to know what to do
3.Actively managing my health


という感じでしょうか。
HLQの1、2、4、6はHLS‐EUでの対応部分はあると言い難く、逆に、HLS‐EUのHealth PromotionにおけるProcess/appraiseはHLQにあると言い難いということです。

ヘルスリテラシーの能力として言われるところの情報の収集、理解、評価、利用は整合性があると言えます。表のHealth promotionを横に見ると、Process/Appraiseの所だけ空欄ですが、これはHLQの9次元の中にここに当てはまるものが無かったということです。
反対にHLQで1次元を構成するソーシャルサポートなどに関する質問項目はHLS‐EUでは見られず、また専門家との協働なども見られません。

どちらもヘルスリテラシーが社会的、認知的スキルであることを宣言していますが、HLQの方が社会的スキルとしての質問項目を含んでいるようにも見えます。しかし、HLS‐EUは社会的または身体的環境における健康の決定要因に対する認知を問うなどやはり自分の力としてだけではなく社会的なスキルとして位置づけているように感じられます。

先に触れたようにHLS-EUはHC-HL, DP-HL, HP-HL, GEN-HLと分けられていますがこれをどのように使い分け、結果を解釈するのかについていまいち不明なので今後も追っていきたいと思います。
それにしてもヘルスプロモーションの領域を構築したというのが画期的なところだと思います。


これは当然のことですが、開発の方法や地域、研究者によって、またヘルスリテラシーをどのようにとらえるかによって開発される尺度も少しずつ変わってきます。
もちろんその開発のなかでの妥当性や信頼性は一貫していなければなりませんが。
広くコンセンサスのとれた尺度があるのであれば、それを使えばいいのかもしれませんが、ヘルスリテラシーというまだまだ発展途中の場合、自分の研究にどの尺度を利用するのか、なぜそれを利用するのか、はたまた新たな尺度を開発するのかといったところを考えていく必要がありそうです。

実は先日、順天堂大学の福田洋先生の臨床疫学ゼミにお邪魔し、そこの院生である知人の方がヘルスリテラシーに関する研究の発表を行っていました。
ヘルスリテラシーのことを私なんかより断然勉強されており、その上で自分に必要な尺度を選択し、自分が明らかにしたいことを分かりやすく発表されていました。
同じ修士として、また関心領域が近い者としてとても刺激になりました。
ゼミの皆様ありがとうございました。

夏休みも終わるので私ももっと頑張らなくては...



[1]Osborne et al.: The grounded psychometric development and initial validation of the Health Literacy Questionnaire (HLQ). BMC Public Health 2013 13:658
[2]Sørensen et al.:Health literacy and public health: A systematic review and integration of definitions and models. BMC PublicHealth 2012 12:80.

2013年8月22日木曜日

ヘルスリテラシー 尺度

前回、ヘルスリテラシーの定義に関するレビューを見たので、今回は尺度についてのメモです。
現在よく知られている尺度といえば、


  • TOFLA(Test of Functional Health Literacy in Adults)(Parker et al., 1995)
→実際に健康や医療に関する教材を用いて機能的ヘルスリテラシー(計算や読み)を測定する。
  • REALM(Rapid Estimate of Adult Literacy in Medicine)(Davis et al., 1993)
→リスト上の医療専門用語などの認知や発音を測定する。
  • NVS(Newest Vital Sign)(Weiss et al., 2005)
→アイスクリームのラベルを用いて、そこから読み取る情報の理解(正当性)について測定する。
  • HALS(Health Activities Literacy Scale)(Educational Testing Service, 2006)
  →健康に関する5領域(health promotion, health protection, disease prevention, health care 
        and maintenance, and systems navigation)における散文読解(Prose)、情報検索と利用
   (Document)、計算(Quantitative)を測定する。
  • NAAL(National Assessments of Adult Literacy Health literacy component)
→プリントや記述による健康情報に関するリテラシーを測定する。


などでしょうか。
今回はt最近出たヘルスリテラシー質問項目についての文献からのメモです。
文献

The grounded psychometric development and initial validation of theHealth Literacy Questionnaire (HLQ)[1]

を読んだのですが、尺度開発の文献なので概念や統計に関する様々な単語が使われており私にはまだまだ難しいですが…
尺度開発に関する日本の文献を読んでいればもう少し理解が進むのかなと思います。
しかし、読みながらいろいろ調べることで因子分析やSEMの勉強にもなりました。
ここでは、尺度の概要だけ載せます。



ほとんどの研究では、ヘルスリテラシーの定義の中で具体的にされた十分に広い概念を捉えられていない尺度を利用しており、また、それらは本質的な心理測定の弱みを持っていることが明らかにされている(Jordan, Osborne, & Buchbinder, 2010)(Jordan, Osborne, & Buchbinder, 2011)

この文献では上記のように包括的なヘルスリテラシー尺度が無いことを問題として、自分たちが開発したHealth Literacy Management Scale(HeLMS)(Jordan et al., 2013)に触れる。
だがこの尺度ではヘルスリテラシーがかなり低い場合には発見に使えるが、多少の低さでは使えず、加えて、最も分散を占めるケアに対する経済的障壁に関する尺度が、重要な尺度というよりは状況的な尺度であることを問題にあげている。

この課題に取り組むために、ヘルスリテラシーの包括的なモデルを開発し、
それを踏まえて新しい包括的な尺度Health Literacy Questionnaire(HLQ)を開発するというものです。

最終的なHLQの表を見ると45の質問項目を持つ9次元の尺度(9scales)からできています。


  1. 保健医療提供者からの理解と支持を得ていると感じること(4項目)
  2. 健康管理のための十分な情報を持っていること(4項目)
  3. 自主的な健康管理(5項目)
  4. 健康のためのソーシャルサポート(5項目)
  5. 健康情報を評価すること(5項目)
  6. 保健医療提供者との積極的な交流(5項目)
  7. 保健医療システムを利用すること(6項目)
  8. 適切な健康情報を探す能力(5項目)
  9. 何をすべきかが十分に分かるように健康情報を理解すること(5項目)
※私の勝手な訳です。

これらは個人の能力としてのヘルスリテラシーと、個人の能力を高めるための組織の能力が反映されているようです。

また、ナットビームの3つのヘルスリテラシーに合わせると、
機能的ヘルスリテラシーには上の9,2,8が、相互作用的ヘルスリテラシーには1,3,4,6,7,8が、批判的ヘルスリテラシーには5,3,4の質問項目が使えるようです。



この尺度は現状西洋向きに作られたようで日本にこのまま使えるかどうかは妥当性のところで不明ですが、非常に参考になると思います。
こう見るとヘルスリテラシーと一言で言っても本当に広い。
前回書いた定義に関する考察も自分の中でまとめていかないと今後の研究に落とし込めなくなってしまいますね…頑張ります。
そして今回の論文もなんとか読むので精いっぱいで中身にほとんど触れていませんが、今後はもう少し批判的な視点で読めればと思います。



[1]Osborne et al.: The grounded psychometric development and initial validation of the Health Literacy Questionnaire (HLQ). BMC Public Health 2013 13:658
論文はこちら





2013年8月9日金曜日

ヘルスリテラシー 定義

ヘルスリテラシーの定義に関するメモです。
Health literacy and public health: A systematic review and integration of definitions and models[1]



背景
ヘルスリテラシーという言葉は1970年代に使われ(Simonds, 1974)、公衆衛生や保健医療の場における重要性が増している。ヘルスリテラシーは、現代社会で人々が持つ健康に対する複雑な要求を満たすための能力である(Kickbusch & Magg, 2008)

以前は、ヘルスリテラシーは医療の場で言葉や数字を扱う力として強調されたが、近年になってその概念は健康情報を読むことや活用、健康の専門家に対するコミュニケーションニーズ、健康教育の理解のように、より複雑で相互につながりのある能力としてのヘルスリテラシーとして理解されるまで広がっている。

IOMのレポートではアメリカの成人のおよそ半分は健康情報を活用することに問題がありうるとされた。(IOM, 2004)。このことは“ヘルスリテラシーエピデミック”と言われている(Davis, 2004)

ヘルスリテラシーの研究や政策措置の増大に伴って、その概念に対する共通した定義が無いことが明らかになっている。
そのため、様々な国による研究から出たヘルスリテラシーに関する発見を比較することが非常に難しい。

そこでこの研究では定義とモデルについてレビューし、統合的な定義とヘルスリテラシーの最も包括的でエビデンスベースドの要因を捉えた概念モデルを開発する。


方法
・2009年秋と2010年春に2つの研究チームによるMedline, Pubmed, Web of scienceでのシステマティックレビュー
・リサーチクエスチョン
(1)どのようにヘルスリテラシーが定義されているか
(2)どのようにヘルスリテラシーが概念化できるか


結果
・ヘルスリテラシーの定義
ヘルスリテラシーの定義に特化して焦点を当てている19の文献から17の明確な定義を抽出した。
これらの定義のうち、AMA(1999)、IOM(2004)、WHO(1998)によるものが抽出した文献の中で最も頻繁に引用されている。

これらの定義が共有する特徴は、適切な意思決定をするために必要な健康情報やサービスを入手し、評価し、理解するための個人技術へ焦点を当ててているところである。
だが、最近のヘルスリテラシーの役割に関する議論では個人への焦点を超え、個人の技術と保健医療システムの相互作用としている。

この広い見方はZarcadoolas, Pleasant & Greer(2003)による定義の中で現れている。彼らは保健医療に関する教養がある人は健康の概念や情報を新しい状況に適応させ、健康や医療、科学的知識、文化的信念の対話に公共でもプライベートでも継続して参加できると述べている。

定義に関するコンテンツ分析は6つのクラスタを生んだ:(1)能力(competence, skills, abilities); (2)行動(actions);(3)情報と資源(information and resources);(4)目標(objective);(5)状況(context);(6)時間(time)

これらから、確認された17の定義の本質を捉える‘すべてを含む(all inclusive)’包括的な新しい定義を開発した。

Health literacy is linked to literacy and entails people's knowledge, motivation and competences to access, understand, appraise, and apply health information in order to make judgements and take decisions in everyday life concering healthcare, disease prevention and health promotion to maintain or improve quality of life during the life course.

ヘルスリテラシーはリテラシーと関連し、人生の道筋を辿る中で、生活の質の向上や維持を目的とした健康向上や疾病予防、保健医療に関する日常生活での意思決定や判断を行うための健康情報を人々が利用し、理解し、評価し、適応させる能力や動機、知識を伴う(訳 自分)。



健康情報を獲得し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定をしたりして、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるもの(中山先生による訳)。




・ヘルスリテラシーの概念
概観することで二つの問題が明白になった。
初めに、ヘルスリテラシーは多次元の概念であり、異なる構成要素から成る。次に、ほとんどの概念モデルはヘルスリテラシーの重要な構成要素を考慮するだけでなく、ヘルスリテラシーを健康アウトカムに結びつける道筋に加えて、個人のヘルスリテラシー水準に影響を与える個人レベルと集団レベルの要因を明らかにしている。

ヘルスリテラシーの次元
医療と公衆衛生におけるリテラシーの違いは異なる次元の識別において反映されている。

集団ヘルスリテラシーという見解の提案者は個人の能力や医療という文脈を超えた次元を含むためにその概念を拡大している。
その模範となるモデルがNutbeamのものであり(Nutbeam, 2000)、ヘルスリテラシーの3つの類型型の相違を見分ける。(1)機能的ヘルスリテラシー(Functional health literacy)は日常生活で効果的に機能するために必要な読み書きの基本的なスキルをである;(2)相互作用的ヘルスリテラシー(Interactive health literacy)はより高度な認知的、読み書きのスキルであり、社会的スキルとともに、日常的な活動に活発に参加し、様々な形式のコミュニケーションから情報を入手したり意味を引き出し、新しい情報を変化しつつある環境へ適用するために利用される;(3)批判的ヘルスリテラシー(Critical health literacy)はより高度な認知的スキルであり、社会的スキルとともに、情報を批判的に分析し、この情報を日常的な出来事や状況をよりコントロールするために使用することに適用される。
(参照:健康を決める力 ヘルスリテラシーの定義http://www.healthliteracy.jp/comm/post_7.html)
個人の健康管理から健康の社会的決定要因まで広がる広大な範囲をを持つ健康知識に従事するだけでなく、健康に関わる意思決定でのより良い個人的エンパワメントと自律性を次第に支援するスキルと知識の水準を異なる類型型が表している(Nutbeam, 2008)。

ヘルスリテラシーの重要な構成要素と考えられる要因の範囲は広大である。また、概念モデル間で広く違いがある。だが、この広く広がっている観点の多様性は2つの次元に減らすことができ、特に核となるヘルスリテラシーの質(基本的や機能的、相互作用的、臨床的ヘルスリテラシー)と、その適用の範囲や領域(保健医療の患者として、市場の消費者として、政界の市民として、メディアと関わる市民として)


前提
人口統計学的要因、心理社会的要因、文化的要因など

Nutbeam(2000)はヘルスリテラシーは教育や、社会的流動?(social mobilization)やアドボカシーのようなヘルスプロモーションの実施の結果であると指摘する。


結果
ヘルスリテラシーが健康状態自己記録の向上や保健医療コストの低下、健康知識の増加、入院の短期化、保健医療サービスの利用減少などをもたらす。

研究者らによるとヘルスリテラシーと健康アウトカムの関係は、単純な直線より、閾値効果を持った階段関数として考えなければならない。

Nutbeam(2000)はヘルスリテラシーによる個人的ベネフィットと、地域またはコミュニティベネフィットを区別している。
個人的ベネフィットの観点から、機能的ヘルスリテラシーはリスクや保健医療サービスに関する知識の増加、指示された行動の遵守をもたらす;相互作用的ヘルスリテラシーは自主的な行動力の向上、動機や自信の向上をもたらす;批判的ヘルスリテラシーは社会的不幸や経済的不幸に対するレジリエンスをもたらす。
コミュニティ、社会的ベネフィットの観点から、機能的ヘルスリテラシーは集団健康プログラムへの参加を増加させる;相互作用的ヘルスリテラシーは社会規範や社会集団との交流に影響を与える力を高める;批判的ヘルスリテラシーはコミュニティエンパワメントを向上させ健康の社会的、経済的要因を元にして行動する力を高める。


ヘルスリテラシーの統合概念モデル
文献の中でヘルスリテラシーの多くのモデルが示されてきたが、発展するヘルスリテラシーの定義とそれが意味する能力を並べるために十分に包括的とみなせるものは無い(Protheroe, 2009)。
これはおそらく、ヘルスリテラシーを概念化しようとする試みが今までヘルスリテラシーに関する様々な見方を取り巻く既存の知識を統合することに失敗してきたことによる。

そこで既存の概念モデルの主要な次元を包括したヘルスリテラシーの統合概念モデルを提示する。
Sorensenらによるヘルスリテラシーの統合概念モデル

3つのレベルの領域(Health care, Disease prevention, Health promotion)を持った健康情報の処理としての4次元(Access, Understand, Appraise, Apply)の組み合わせは、ヘルスリテラシーの12次元を持つマトリックスを生む。


考察/結果
重要なこととして、このモデルはヘルスリテラシーを高める介入の発展させる概念基礎として用いることで保健医療の実践や、疾病予防、ヘルスプロモーションを支援することができる。
さらに、測定ツール開発のための基礎として用いることでヘルスリテラシーに関する研究に貢献する。現在利用できるヘルスリテラシーの測定ツールは文献で議論されている概念の全ての側面を捉えてはいないので、公衆衛生に対するヘルスリテラシーの定義と付随する概念モデルを反映しているヘルスリテラシーを評価の新しい尺度開発が必要である。
概念の妥当性確認アプローチに従うことで、ここで呈示した概念モデルで描かれた次元評価のための尺度が開発可能である。
これは分野の最先端を反映し、社会研究のためや公衆衛生の実践において適用できる、ヘルスリテラシーの包括的な測定を生むでけでなく、その概念モデルを承認し、こうしてヘルスリテラシーの理解に貢献する。



一番重要な統合モデルに関する3領域×4次元は明快でわかりやすかったのですが細かいところがまだちゃんと理解できていません。もう少し深めて分かっていければ追記していきます。


[1]Sørensen et al.: Health literacy and public health: A systematic review and integration of definitions and models. BMC PublicHealth 2012 12:80.

2013年8月6日火曜日

Apomediation

前回触れたApomediationについてのメモです。
このApomediationはMedicine2.0の主要なテーマの一つとして論文(編集後記)

Medicine 2.0: Social Networking, Collaboration, Participation, Apomediation, and Openness[1]

で取り上げられています。



Apomediationとは学問上での議論の中で“Web2.0という言葉を避けるために創られた”社会技術論の用語である。それはユーザーが信頼・信用できる情報やサービスを認識するための3つ目の方法を描く。
1つ目に、仲介intermediaries(仲介者、ゲートキーパー)を使うこと。例えとしては、関連のある情報を提供する医療専門家や、専門家によって審査された情報だけを含むウェブポータルがある。

2つ目に、完全に仲介者を通さないこと。このことは普通、中間排除disintermediation言われる。例えば、ウェブ上で情報を探している患者や、旅行代理店を介さず飛行機の予約システム上で直接予約する旅行者である。

Web2.0時代に普及する3つ目の方法が中間排除の特別な形である:人々がゲートキーパーとしての伝統的な専門家や権威者にほとんど頼らずに、代わりにapomediariesから案内を受け取る情報探索戦略
仲介intermediaryとapomediaryの違いはintermediaryは情報と消費者の間“in between”に立ち、最初に情報を受け取るのには必要な存在であるということを意味し、結果としてそのintermediaryの質や信頼性は消費者が受け取る情報の質や信頼性によって決まる。
反対に、apomediationは消費者を何も必要とせず、仲介されている情報を変えたり選んだりするための限られた個々の力を持つ?質の高い情報やサービスに案内するためにそばに立つ“stand by”人やツールである。

人はapomedationとintermediationのモデルの間を行ったり来たりする。


保健医療の文脈では、disintermediationは消費者自身の健康データや一般的な医療情報へ自由に直接アクセスできることを意味する。

仲介者の伝統的役割は諸飛車を関連があり信用できる情報に案内することである。その仲介者を通さないことの主な問題は消費者が大量の情報を前に途方に暮れることや、誤っているまたは関連が無い情報を入手することである。Apomediation理論は“apomediaries”が部分的にintermediaryや、ユーザーに関連があり正確な情報を“push”または“guide”する役割を引き継ぐことができる。

Apomediation理論はユーザーや友人のようなapomediaryは付随的な信頼性のキューやメタ情報を提供しながら、デジタルメディアのネットワークによって与えられるたくさんの情報からユーザーの案内を手助けするとしている。例、アマゾンンの消費者によるレートなど。

The Dynamic Intermediation-Disintermiation-Apomediation model (DIDA) によれば消費者がapomediationまたはintermediationのどちらの環境を好むかはかなり状況次第であり、apomediationに対する消費者の好みを決める重要な変数は自律性や自己効力感、情報やサポートが求められる特定のエリアにおける知識である。
例えば、がん患者ははじめ情報ニーズを満たすためにintermediaryを好むかもしれないが、自律性、自己効力感、知識の増加に伴って、その患者は信頼のできる情報のために後になってWeb2.0アプローチを好むかもしれない。

apomediationは専門家にとっても重要であり、以前はブローカーを経た文献検索も今は自分で検索できる...以下省略



apomediationという言葉は2000年後半から文献上に出ていますが、日本では全く認知されていないので(そもそもMedicine2.0が...)日本語にしたらなんと言うのか難しいです。
しかし言わんとするところは分かりました(訳が?のところもあるのですが)。
ソーシャルメディアによって情報の流れが多様化しましたが、今回3つの方法という点で簡潔にまとめることができて頭の整理にもなったと思います。


[1]Medicine 2.0: Social Networking, Collaboration, Participation, Apomediation, and OpennessJ Med Internet Res 2008;10(3):e22


慢性疾患管理でのソーシャルメディア利用による健康アウトカムと関連のある効果

慢性疾患の自己管理という観点からソーシャルメディアを利用するという文献はちらほら見ますが、しっかりと読んだことが無かったのでその文献レビューを読んでみました。今回はそのメモです。
Health outcomes and related effects of using social media in chronicdisease management: A literature review and analysis of affordances[1]



背景
保健医療消費者は様々な健康情報を求めてインターネットに頼り、また、インターネットへのアクセスが可能であれば慢性疾患患者は状態を管理する健康情報資源のによってソーシャルメディアの恩恵を被るだろうとレポートで強く報告されている(Fox, 2011)。

患者中心や、個人に合った情報が主な面であり、それによって情報そのものではなく情報の共有が注目されている(Kamel & Wheeler, 2007)(Kaplan & Haenlein, 2010)(Boyd & Ellison, 2008)


レビューの目的
以下のエビデンスを評価する
・慢性疾患の管理にどのソーシャルメディアが利用されているか。
・どの慢性疾患(や人口統計学上)においてソーシャルメディアが利用されているか。
・どのようにソーシャルメディアが利用されているか。
・ソーシャルメディアの利用に関わる健康アウトカムやその他の効果は何であるか。
・これらの関連を決定するために使われている研究方法は何であるか。
・どのようにソーシャルメディアの特定のアフォーダンスが健康アウトカムやその他の効果と関わるのか。


結果
文献抽出(N=19) 
7つの主題内容分析(thematic content analysis)を用いた質的研究
3つのRCT
1つの無作為化縦断デザイン(randomized longitudinal design)
1つのシステマティックレビュー
7つのミックスメソッド

単独の慢性症状に着目しているもの(N=11)
5つのがん(内2は乳がんに特化したもの)
3つの状態に関連する慢性疼痛
1つのHIV/AID
1つの糖尿病
1つの関節リウマチ
その他複合的な症状などに着目しているもの(N=8)
複合的なものの中でも共通して報告されるものは1番に乳がん、2番に関節炎、3番に線維筋痛症


Web2.0より早くから存在していたものPredicessor(N=12)
OSG(Online Support Group)
OSGの利用は複数のカテゴリに当てはまる
ソーシャルサポート、情報の検索/洞察、情報/経験の交換、肯定的な意味の発見、比較/認識、他者の助け
OSG利用者はエンパワメントされた患者になる(van et al., 2008)(van et al., 2009)
利用者はかなり能動的にも受動的にもなりうる(Setoyama, Yamazaki, & Namayama, 2011)

SNS(N=5)
→サポートetc

Blogs(N=1)
がん患者にとってブログは感情のコントロール、問題解決、情報共有のために使われている(Chung & Kim, 2008)。

Vartual Worlds(N=1)
ヘルスケアへのアクセスが困難な人や、対面の場参加することが難しい人などのうつや慢性疾患に効果的な介入が可能。


このレビューで示された効果と健康アウトカムのカテゴリ
・参加(Engagement/participation)
・社会的交流(Social interactions)
・特定の疾患に関する知識への効果(Effect on disease-specific knowledge)
・心理的影響(Psychosocial impacts)
・身体状況への影響(Physical condition impacts)

参加
ウェブサイトへの積極的な参加が増えることと、実際の世界でのサポートに関するソーシャルネットワークが少ないことは正の相関がある(McLaughlin et al., 2012)。
オンライン介入に積極的に参加する利用者に影響を与える要因を調査する2011年のレビューで、統合的なソーシャルツールやソーシャルサポートは患者にとってより自分に合った介入として働くことが示された。このことが利用者の積極的な参加をもたらす(Schubart et al., 2011)。

社会的交流
・ピアサポート
・エンパワメント(ネットワークの構築、社会に対する受容と所属、理解と承認)
・情報共有

特定の疾患に関する知識への効果
特定の疾患に関する知識の向上は、慢性疼痛患者に対する相互作用のあるソーシャルサイトの概念デザインの中で最も強調されるものであり、それによって利用者は宣言的知識や事実に基づく知識を構築するために情報を求める。
このことは利用者が疾病管理の際に、情報を適応させることを可能にする(Schulz, 2009)

心理的影響
情緒的負担、不幸、痛みを引き起こす恐怖感、うつ、不安やストレスは、慢性疼痛患者に対するカスタムソーシャルネットワークサイトの介入を利用することで良くなると統計的に考えられている(Ruehlman, Karoly, & Enders, 2012)

身体状況への影響
普段の治療と比較して、オンラインの慢性疼痛管理プログラムを行っている人は痛みの激しさ、痛みに関連する干渉、知覚している障害が統計的に有意に向上した(Ruehlman, Karoly, & Enders, 2012)。
患者のニーズに対する個人に合った介入が実際の痛みや活動制限の向上をもたらす(Schulz, 2009)。


アフォーダンス
Identity
自己呈示(self-presentation)
匿名性の利点や欠点

flexibility
時間や場所を選ばない非同期性のコミュニケーション(asynchronous communication)

structure
apomediary”としてのソーシャルメディア=患者が状態の管理をするのに関連のある正確な情報に誘導すること(Hesse et al., 2011) ※apomediation
ソーシャルメディアによる誘導の促進という考えは様々なレベルで起こる。
慢性疾患の管理におけるソーシャルメディア利用は、自己誘導(ブログによる情緒的カタルシス)、ピアトゥピアの相互作用による促進、外部資源による誘導になりうる。
ある研究はピアトゥピアの相互作用と外部による促進(専門家の導入)を比較している(Klemm, 2012)

Narration
ブログを筆頭として特に情緒的サポートになる。

Adaptation
慢性疾患患者は症状や期間によってニーズが変わるのでその管理に多様性が必要である(van et al.,2008)。
HIV/AIDの初期段階では情報ニーズが高く、共有やネットワークの構築が重要である。しかしながらそれが進行すると情報ニーズが減り、ソーシャルメディアは関係性の強化やサポートのための役割が大きく増す。それゆえ、その役割はその時の患者のニーズに沿って変わる。患者は自分の状態と折り合いをつけると、ほとんど情報媒体には頼らなくなりソーシャルメディアの利用を止めることがある(Shigaki, 2008)


考察/結論
制限やアフォーダンスについて…詳しくは省略



apomediationという言葉はここで初めて知りました(Health2.0やMwdicin2.0の文脈ではよく取り上げられていたみたいですが気にしていなかったのでしょう...)。ソーシャルメディアによって情報の仲介者(専門家など)を持たないが、案内する場(友人など)が生まれたということ(?)だと思いますが、仲介者を持つことと持たないことによる情報の流れや質、利点、欠点などはしっかりと明らかにしておきたい所です。この部分については元の論文で確認しようと思います。


[1]Merolli M et al. Health outcomes and related effects of using social media in chronic disease management: A literature review and analysis of affordances. J Biomed Inform (2013), http://dx.doi.org/10.1016/j.jbi.2013.04.010

2013年8月2日金曜日

Web2.0と看護士の利用 行動科学

Web2.0と看護士に関する文献メモです。
私の興味のある対象は一般の人ですが、Web2.0の利用についてですし、そして私が看護情報学専攻ですし、ということで読んでみました。
Hospital-Based Nurses’ Perceptions of the Adoption of Web 2.0 Tools for Knowledge Sharing, Learning, Social Interaction and the Production of Collective[1]



・IntelligenceWeb2.0ツールがどのように看護領域で用いられるか、看護師によるWeb2.0の受容に対する行動の知覚を調査する。
・看護師の受容に対する意図に影響を与えている要因を明らかにするリサーチモデルを設計
・モデルに基づいて仮説と質問紙の設計
・データを収集し、要因を明らかにする。


どのようにWeb2.0ツールが看護師による知識共有、学習、社会的交流、集団的知性を支えるか。
・看護師はブログを使って、バーチャルコミュニティや社会的交流によって看護知識を得て、お互いに労働経験を学ぶことができる(Lau & Tsui, 2009)。

・看護師はwikiを使って協働的学習や内省的学習の経過を経験することができ、他の看護師から知識を得て、問題解決にその知識を適応させること
ができる。消費者のウィキ作成サイト面白そう
・Podcastで、看護師はRSSを使えばリアルタイムでの知識共有、最新情報の取得、学習を促進するために他者とインターネットのリソースを共有することができる。
いつでもどこでも看護学習や集団的知性の創造が行えるよう、RSSを使って、画像や音声またはビデオファイルで看護スキルや技術を他の看護師と共有や獲得することができる。
・看護師はウェブサイトや学習リソースを共有するためにタグ付けを行うことができる。
・看護師は知識共有や学習にソーシャルブックマークを使うことができ、無駄な検索を減らし、リソースの共有によってソーシャルラーニングを促進する。
・看護師はソーシャルネットワーキングソフトウェアを使って、自身のソーシャルコミュニティを築き維持することができ、それによって患者が行っているようにインターネット上で社会的交流や学習、集団的知性の創造を促進する(Chou et al., 2009)(Wicks et al., 2010)


人間行動モデル
合理的行動理論The theory of reasoned action (TRA)、計画的行動理論the theory of planned behavior (TPB) (Pawlak et al., 2008) 、技術受容モデル(仮)technology acceptance model (TAM) (Kim & Chang, 2007)は人の行動の受容に対する認知に関する研究でもっとも広く使われる人間行動モデルである(Davis, 1989)(Iacovou & Izak, 1995)(Benbast & Wang, 2005)

計画的行動理論の構造と基本的信念からhe decomposed theory of planned behavior (DTPB)(Taylor & Todd, 195)(Shin & Fang, 2004)(Lau & Kwork, 2004)を得た。
このモデルはTAMの利点も持つ。

このDTPBモデルに基づき、香港の看護士におけるWeb2.0の受容を研究するために新たな理論的枠組みを作った。

Web2.0の受容という利用行動は行動的意図によって決まり、大きな三つの決定要素―態度、主観的規範、行動制御感が行動的意図を決定するために使われた。

有効性の認知や利用しやすさの認知、相対的な利点、適合性はWeb2.0ツールへの態度を決める構成概念、上司による管理、病院の影響は主観的規範の構成概念、資源や技術を促進する環境は行動制御間の構成概念である。


このモデルに基づき仮説を立て、質問紙を開発した。


方法
・必要なサンプルサイズは377と計算
・病棟などで働く看護士1053に質問紙(6段階のリッカート尺度)を配布
・返ってきた392の内、不完全な回答である4つを除く388(37%)を分析
・ピアソンの相関係数rとt値の利用
・相関係数は2つの構成概念間の関係の強さを見るため、t値はその相関自体が偶然によるものかどうか判断するために利用

結論/考察
Web2.0の受容は客観的な決定ではなく、看護士にとっていかに有効で役に立つかによる。適合性も看護士の実際の行動を変容させるのに重要である。

多くの看護士は何らかのWeb2.0ツールを利用しており、利用しやすさの認知は重要でない。

同僚や病院は上司の管理より重要な影響を持つ。これはWeb2.0のコミュニティでは同僚無しには形成されないことによる。つまり同僚がWeb2.0のプラットフォーム上で活動していることは大きな影響を持つ。

だが、そこには知識共有のための患者のデータやプライバシーが起こりうるので、看護士の意思決定に重要な問題として病院の管理やガイドラインがある。

同僚の参加と病院の管理が看護士によるWeb2.0の受容に影響する主要な要因である。

利用行動は行動意図と有意に正の相関があり、行動意図は態度や主観的規範、行動制御間と正の相関を持つ。t値は態度、行動制御間、主観的規範の順に小さくなっていた。

政策立案者はこういったことを踏まえるべきである…



読んで見ると行動科学的な見地からの論文でした。
分析方法が相関とt値による有意性を見ていたが、多変量解析があってもよさそうな気がします(統計に関してまだ無知ですが...)。

2013年7月30日火曜日

ヘルスリテラシ―におけるソーシャルメディア

WebMedCentralで公表されていたブリーフレポートのメモです。
ソーシャルメディアとヘルスリテラシーという観点からの話で面白そうだったので読んでみました。

On Social Media in Health Literacy[1]



ソーシャルメディアは利用者が適切な意思決定を行うのに必要な健康情報やサービスの(1)収集と(2)処理、理解する能力の向上に潜在的可能性がある。
しかしそれは特にその二つの能力の内の一つ目、健康情報を得る/アクセスする能力であり、それはソーシャルメディアによってすぐに向上されうる。二つ目の健康情報を処理し理解する能力はウェブ中に広がる様々な要因による。つまり、コンテンツの質や健康情報の提示とその情報の標的集団のヘルスリテラシーレベルとニーズにどの程度合っているかということである。

バイラルソーシャルマーケティングはソーシャルメディアの強みであり、そして健康教育やヘルスプロモーション、社会事業で重要な役割を果たす (Gosselin & Poitras 2008) 。
例えば、バイラルマーケティングやソーシャルメディアはトルコでのコンドーム利用の促進に成功した(Purdy, 2011)。


2011年のONS(Office for National Statistics)レポートによればイギリスでのモバイルインターネット利用はすでにおよそ50%である。
スマートフォンやそのアプリは急速に、そして根本的にヘルスケア、特に慢性疾患を持った患者のケアを変えた (Kamel, 2011)(Leslie, 2011)(Kamel, 2011)


ソーシャルメディア戦略はソーシャルメディアテクノロジーをエビデンスのあるオンライン資源につなげること、新しいアプリケーションを適切な利用集団に用いること、ヘルスコミュニケーションの最適な実践を取り入れること、ヘルスリテラシーの問題を関連のあるソーシャルメディアのコンテンツで取り組むこと (Kamel, 2005)(Metzger & Flanagin, 2011)(Chris et al., 2011) 。


今日、問題はもはやソーシャルメディアをヘルスリテラシーのために利用するかどうかではない。
むしろ問題はどのソーシャルメディアを利用するか、 どうしたら最適に行えるかである。



ブリーフレポートということで内容はあっさりしてましたがソーシャルメディアによる健康情報の収集能力と、処理し理解する能力の向上に関して2つに分けている所が、ついついヘルスリテラシーという一つの能力として考えがちな私には参考になりました。
次こそは原著を読まなければ。



[1]:Kamel Boulos M N. On Social Media in Health Literacy . WebmedCentral HEALTH INFORMATICS 2012;3(1):WMC002936

ヘルスケアがソーシャルメディアを迎える

CALIFORNIA HEALTHCARE FOUNDATIONから2008年に公表されたレポート
The Wisdom of Patients: Health Care Meets Online Social Media[1]
のメモです。


論文ではなくレポートですが、2008年という日本でもようやくソーシャルメディアが流行り始めた時のレポートで、結論のところではWeb3.0についても言及していたことから気になって読んでみました。



Web2.0は一般の人がオンラインコンテンツを創造することを可能にした。
ユーザー生成コンテンツ(UCC)はソーシャルネットワークによって支えられる様々な活動があり、写真の共有や、ビデオのアップロード、音楽のダウンロード、ブログなどがある。消費者は日々の生活で娯楽や教育、財政経営のために使っており、ソーシャルメディアと呼ばれるこの技術は消費者が健康情報やサポートのために使うプラットフォームでもある。
インターネット上のソーシャルメディアは保健医療の場の消費者と医療提供者にempowering、engaging,、educatingを行っている。
この流れ(movement)はhealth2.0として知られており、
ソーシャルソフトウェアの利用と、患者やその保健医療提供者、医療専門家、保健医療分野の利害関係者間のコラボレーションを促進する能力
と定義できる。

ソーシャルネットワーク内に患者が多ければ多いほど、彼らは多くの価値を創り出す。これはポジティブネットワーク外部性(positive network effect)という現象である。集団的知性の利用(harnessing collective intelligence)と呼ぶ人もいる。
James Surowieckiは彼の著書、「Wisdom of Crowds」の中で、“集団とは驚くべきほど知的で、たいていその集団の中で最も賢い人々より賢い。”と述べた。

PatientsLikeMeの例


2008年のEdelman Trust Barometerによると人は自分のような人を権威者より信頼する傾向があり、さらにソーシャルネットワーク―企業についての意見を友達、同僚、広いコミュニティで共有する人々―はより健康志向が高い。


Jude O'Reilleyによれば現在の消費者生成コンテンツ(CGC)は意思決定支援のためにきちんと整理されていない。
“人々は実用的な情報を得るために広大なメッセージボードから採掘している。その人達が自分でせざるを得ないことは二つの困難な課題を解決することである:一つ目にこの人は私と同じような人なのか、;二つ目にこの人は信頼できるのか。信頼を構築する作業は非常に骨が折れるものである。”


保健医療におけるソーシャルメディアへの批判は個人によって作られたコンテンツは悪影響や、死さえひきおこしうると警告する。
Envision SolutionsのFard Johnmarはこれに対して“コミュニティはとても活動的で、自己修正をする多くのメンバーがいる。間違った情報は追い出される。ちょうどウィキペディアのように、間違った情報は長いこと残りはしない”と反論した。



Yahoo!HealthのBonnie Beckerによれば“プロシューマー(Purosumer)”とは健康情報を積極的に検索する消費者(Consumer)であるという。
Beckerは“消費者はオンラインの健康情報のソースとして単に一つのソースだけを使うことはない。人は平均して5つの情報ソースを検索に利用する。人はYahoo!Healthを訪れるだけではなく、MayoやWebMD、ブログサイトを訪れる。人は全てのWebに即して情報を再確認するのである。”と言う。



なぜ消費者はソーシャルメディアを利用するのか
情緒的サポートは重要であるが、薬や治療に関しての他者の声を聴くこと、他の人の知識や経験を見ること、状態をどのように管理するかを学ぶことのほうがより重要となっている。
出典Jupiter Research, Online Health: Assessing the risks and opportunity of social and one-to-one media, 2007.



保健医療の場でソーシャルメディアを利用する人はどれ位の個人的な情報が共有され、その情報を共有することによる個人的な見返りはなんであるのかに関してよく学んだ意思決定が求められる。



インターネットがWeb2.0に発達したように、専門家がWeb3.0を思い描くことは自然であり、それはセマンティックウェブとして知られている。セマンティックウェブはオンラインで利用できる情報やサービスが持つ意味の定義が加えられたワールドワイドウェブの拡張である。それは人の要求を理解し、満たし、機械がコンテンツを使うことを可能にする。

ワールドワイドウェブを開発し、その用語を造った開発者Tim Berners-Leeはその重要性を語った。“今日のほとんどのウェブコンテンツは人が読むように設計されていて、コンピュータープログラムが有効的に操作できるようにはなっていない。コンピューターはレイアウトや日常的な処理のためにウェブページをうまく分析することができる。だが一般的に、コンピューターには意味を処理するための信頼できる方法が無い。”
コンピューターは検索用語の意味を知らない。
セマンティックウェブの実現は全ての人に求めているものにより近い情報の検索をもたらしうる。


少し古いところもありましたが、2008年の段階ですでにここまでまとめらているということに驚きです。

[1]The Wisdom of Patients: Health Care Meets Online Social Media
Jane Sarasohn-Kahn, THINK-Health

CALIFORNIA HEALTHCARE FOUNDATION
レポートはこちら

2013年7月25日木曜日

ヘルスコミュニケーションと新技術②

7月24日水曜日のゼミで輪読の担当をしました。
今回はそのご紹介です。

書籍
Health Communication in the 21st Century, Second edition


輪読箇所
Chapter7 New Technologies and Health Communication



New Technologies and Provider-Provider Communication
Email, Wireless/satellite Communication, and Electronic Records
・それぞれの特性
・ Electronic Medical Records  
Eder and Wise(2001)は保健医療分野のビジネス活動のおよそ75%が情報の入手の操作であり、そのほとんどが紙媒体であると見積もった。

Disadvantages of New Communication Technologies
・診察室でコンピューターを利用することがプロバイダーと患者のやり取りにどのような影響をもたらすかについてはあまり知られていないが、コンピューターを使って患者の情報を得ることは言語 的にも非言語的にも患者とのやり取りを減らす可能性がある。
・ ヘルスコミュニケーションの文献は、コンピューターの無い診察室でプロバイダーと患者の間におこりうる様々なやり取りの問題を記録してきた。

⇒コンピューターの導入は診察時のやり取りを一層複雑にして、問題のあるものにすると想定するのは合理的である。

・ プライバシーや機密性
Federal Trade Commision’s Fair Information Practices guidelines
HIPPAA

Continuing Education
・ ウェブベースドの継続教育コース
多くがプロバイダーに自身のペースでコースを修了することを可能にし、中にはコースの終わりに 終了証をダウンロードできるようにしているものさえある。
“インターネットは高価な会議場や視聴覚教材の借用、旅費、施設やスタッフへの手数料を省き 非常に低価格で現在のCMEを提供する” (Whitten, Eastin, and, Coo, 2001)。
・ インターネットベースドの継続教育コースの種類や質はさまざまである(Kim, 1998) 



New Technologies and Provider-Patient Communication
On-Line Communication Technology and Provider-Patient Interaction
Physician Resistance
・ 医師はeメールやウェブベースドの媒体を使って患者と交流することにやや否定的である  (Podichetty & Penn, 2004)。
・ eメールには医師患者間のコミュニケーションを促進する力があるが、多くの医師は患者のプライバシーやヘルスケアに関する心理社会的要素(対面でなければ判断して伝えらえないもの)を提供する力の衰え、医療過誤による訴訟の増加といった理由から伝統的な医師患者間の境界線を越えたがらない(Bovi, 2003; Houston, Sands, Nash, & Ford, 2003; Roter et al., 2008)。

Advantages of On-Line Provider-Patient Communication
・ 患者の78%が、医師とのオンラインコミュニケーションを対面コミュニケーションより好んだ(Sutton & Walker, 2007)

⇒Eメールの持つ非同期性という本質が、患者が健康についての関心を尋ねたり、伝えたりする時にその考えをまとめる時間を与えるので、理解のある患者になれる(Strasser et al., 2002)。

・ 伝統的なプロバイダー患者関係は新技術を利用する可能性を低くする可能性がある。

Changes in Face-to-Face Provider-Patient Interaction Due to the Internet
・ 医師は多くの時間を患者がオンライン上で得てきた質問に答えることに費やしている(Sundar et  al., 2011)。
・ 患者は自分たちの健康状態に関する補完的な情報を持ったウェブサイトを医師から勧められたいと思っている(Diaz et al., 2005)。患者は医師がインターネットから得た情報についての質問に答えてくれたり、問題に取り組んでくれた時により満たされるようである。

Websites and Patient Access to Providers
・ 健康情報を提供するサイトへの商業目的のスポンサーがつくことへの懸念。
⇒健康に関するサイトによって歳入を増やすことは公衆衛生の向上より重要なのか?

Telemedicine and Patients
・ 交流の大部分はプライマリケア医と専門医によって行われていて、患者はほとんど参加していないという報告がある(Turner, 2003)。
・ 患者はテレメディシンによる交流に満足している(Whitten & Buis, 2008)とす一方、Miller(2003)はテレメディシンでは非言語的キューが減るので主観性の失われたプロバイダー患者間の交流になるとしている。

Managed Care Organization Efforts to Reach Patients Via the Internet
・ ケア管理組織の作るインタラクティブなサイト
消費者はそれによって自分にあった情報を得られが、ウェブ上の健康情報を強調する。
⇒実際のプロバイダーとのインタラクションには反している。

Witherspoon(2001)はHMOのサイトに専門家などへのeメールのリンクや掲示板、チャットルームが無いことを明らかにした。



New Technologies and Health Campaigns
Tailoring Health Messages
・ 特定の集団に対する特定のメッセージ
ヘルスキャンペーンにおいて、人は個人的に関係のある情報により関心を持ち、このことは態度や行動の変容をもたらす重要な一歩目である(Kreuter et al., 2000)。
・ Kreuterら(2000)はメッセージが個人の明確なニーズを反映する時、それはよく考えこまれて作られる。そしてElaboration likelihood model(Petty & Cacioppo, 1981)によると、継続した態度や行動の変容に重要な前提条件である。
・ プログラミングプロセスのために作られるアルゴリズムによってターゲットとなる人と特定のメッセージを素早く結びつけることで、コンピュータープログラムはテーラードメッセージの開発を可能にした。



ディスカッション
・コンピュータによる特定のメッセージの理解の助けとして米国のHHSが手掛けるhealthfinderの話
・健康サイトにスポンサーがつくことをどう捉えるか。実際の所、スポンサーがつかなければサイトを運営していくのは困難である。現在はスポンサーを公表するというのが決められているので、あとは読み手がどう読むか、専門家が中立的にそのサイトを評価できるか。
・ネット上での交流でなくeメールを使うことの意味。
・医師と患者のeメールコミュニケーションは実際には医師にとっては大きな手間となりうる。
・Elaboration likelihood model=精緻化見込みモデル
私たち消費者は広告の持つ説得(この商品を買わせようという説得)に対して2つの反応がある。1つが中心ルートと呼ばれる、その広告が持つ内容を正しく理解し、検討するという反応。もう1つ周辺ルートと呼ばれる、広告の内容より起用しているタレントなどによって影響される反応。


夏休み前半

7月に入って授業も終わり夏休みに入ったわけで研究を進めるには十分な時間を得たのに研究メモを全然残せていません。
決して遊びほうけているわけではないのですが...遊んでるけど

とりあえず、自分の頭を整理するためにも今日こそは書きます。

7月に入ってからは前回このブログでメモした文献を学部の時のゼミで紹介しました。
その結果学部生にうまく伝わらない。私の訳や、日本語がわかりにくかったり、発表の仕方が下手ということが大きな問題にあるのは確かですが、それは置いといて、自分が当然と思っている知識が相手には当然ではないということです。
専門家と一般の人のコミュニケーションでもその点はよく指摘されるところだと思います。
ただし、このことは重々承知していることだったので驚きはしないのですが、問題はその先にあって、私がみんなに分かるように伝えられないということです。
分かりやすく伝えようと思い、そして実際その通りに行ったつもりでしたが、後から感想を聞くと面白いし勉強になったという半面難しくて分からないとこも多かったとのことでした。
これならわかるだろうという勝手な判断があらためて危険なものであると体で感じられたことはすごくありがたい経験です。また他にも率直な意見を聞くことができたので感謝しています。


続いて、札幌で開かれた医療情報学会看護部会へ中山先生と参加してきました。
看護系の学会は初めてで、他とはまた違った雰囲気があり面白かったです。
がちがちの看護系の話はまだまだ私には理解する力が及ばなく、難しかったのですが看護教育でのeラーニングの方の話は、ゼミでもそのような話があるので聞きやすかったです。
ただし、そのようなテーマは学会内での注目度は低い感じがあるようです(笑)
学会の終盤では石垣靖子先生の「看護を語る―つながりが看護を変える」を聞きました。
非常に丁寧にお話をされる先生で非常に聞きやすく、時にはコクッと意識が飛ぶ瞬間もあったのですが、それでもつながりのお話を経験や、様々な言葉を使ってしていたので面白かったです。
中山先生もすごくよかったとおっしゃっていました。ただしデジタルとアナログという言葉の使い方には気になったようでその点も私は学ばせていただきました。


続いて、戻ってきてからはゼミの研究発表だったので、ブログに書いて学部生にも紹介した例の文献をゼミの研究でも発表しました。
学部生からの意見を参考により発展させた形で紹介しました。
私はソーシャルメディアの利用点とソーシャルメディアの重要点というところを、あまり区別なく紹介しましたが、そこの違いとなるoverarchの指摘にはなるほどと思い、前回の投稿も直しました。
また、紹介した文献がシステマティックレビューだったのですが、ゼミの終わりにそのレビューされている文献の一つに研究室の先輩と仲山先生の論文が含まれていることをその先輩が教えてくださり、感動しました。
その方は後日修士の頃の論文まで私に送ってくれて、今後の研究への参考にも、モチベーションにもなり感謝しています。


続いてPPの会(Positive Psychologyの会)での発表があり、
Handbbok of Positive Psychologyからsharing one's storyを同じM1の方と分担して発表しました。
トラウマに対するwritingやtalkingの重要性を述べています。
私の発表の主な点は抑制とと開示、認知的プロセス、社会的プロセスの三つの視点からwritingやtalking最終的にはpositive psychoogyについてです。
ディスカッションではいろんな話(ポジティブ感情とネガティブ感情は独立している、男性の感情抑制は意図的、ポジ:ネガ=3:7、ポジティブ感情単語とネガティブ感情単語がどの割合で用いられるべきか、writing研究にはポジテティブバージョンがあるetc)が聞けて大変参考になりました。


最後に昨日が研究会の輪読担当でしたので発表しました。
新技術のもたらす保健医療提供者間のコミュニケーションや提供者と患者間のコミュニケーション、ヘルスキャンペーンに関する話をしました。
この点は別項でまとめようと思います。
昨日は同じM1の方の研究テーマに関するお話もあったのでいろんなご指摘はわが身に置き換えて聞いていました。
その点も忘れないようにして自分のテーマを明確にしていきたいと思います。


他にも統計で様々な分析をして学んだりとありますがこの辺にしておいて、
今後はまた文献や研究についての備忘録を作成していきます。




2013年7月8日月曜日

ヘルスコミュニケーションにおけるソーシャルメディア


ヘルスコミュニケーションにおけるソーシャルメディアの有用性のメモです。
今回も文献からです。

A New Dimension of Health Care: Systematic Review of the Uses, Benefits, and Limitations of Social Media for Health Communication[1]

保健医療の分野でもソーシャルメディアに関する文献が欧米を中心に増えています(日本の文献は…)
そこで現状を理解するためにも一度システマティックレビューを読んで整理しときたいと思います。



以下、概要


ソーシャルメディアの利用は保健医療の現場を含み、世界中で増え続けている。

KaplanとHaenleinはソーシャルメディアを次のように定義する。

ソーシャルメディアとは、Web2.0の概念的、技術的基礎の上に構築されたインターネットアプリケーションの集合であり、ユーザー生成コンテンツの創造と交流を可能にするものである。

また、彼らはソーシャルメディアはメディア的要素と社会的要素の二つの構成要素に分類することができるとしている。
メディア的要素とは、どの程度対同時生のあるコミュニケーションを実施できるのか、どの程度曖昧性や不確実性を減らすのかということを含むものである。
社会的要素はGoffmanの自己呈示(self-presentation)に基づくものであり、人は交流の中で相手が自分に対して抱く印象をコントロールしようとする目的を持つというものである。

ソーシャルメディア(social media)とソーシャルネットワーク(social networking)は混同して使われることが多いが、実際には同じものではない。
ソーシャルメディアはメッセージの伝達を行うコミュニケーションチャンネルとして働き、ソーシャルネットワークは双方向で直接のコミュニケーションである。

個人的特性とソーシャルメディアの参加には関係性があることが認められている。
ジェンダーや年齢はその要因となりうる。

保健医療の場でのソーシャルメディアの利用はWHOのtwitter利用から医療現場まで多岐に渡る。

異なるソーシャルメディアプラットフォームの形態や機能の相違を探るために、Keitzmannらは “social media ecology”を提唱した。
これは様々なソーシャルメディアプラットフォームから構成され、保健医療提供などの組織に対して異なる影響をもたらす7つの構築ブロックからなるハニカム構造になっている。
構築ブロックは以下である。(ハニカム構造の詳しい説明はこちら

①同一性(identity):どの程度利用者が自分自身を顕にするか②会話(conversations):どの程度互いに交流するか③共有(sharing):どの程度コンテンツの交流するか④存在(presence):どの程度他者の利用を知っているか⑤関係性(relationships):どの程度互いに関わっているか⑥評判(reputation):どの程度他者の社会的地位やコンテンツについて把握しているか⑦集団(groups):どの程度コミュイティを形成しているか

このように、組織はソーシャルメディアの展望を認識し、理解した上でそれに適した戦略を立てる必要がある。同様に、 MangoldとFauldsは提供者とメッセージの消費者の関係性は変わってきていると強調した。このことは、オンラインヘルスコミュニケーションの妥当性と信頼性を維持するために提供者はある程度のコントロールを必要とするかもしれないということ示唆する。

現在、一般の人や患者、医療者や専門家におけるヘルスコミュニケーションに対するソーシャルメディアの利用やその利点、制限についての情報が不足している。
この論文の目的はその点と、先行研究に見られる現在のギャップを明らかにすることで今後の研究に指針を与えることである。これはソーシャルメディアがヘルスコミュニケーションの向上につながるかどうかを実証するためにも重要である。


PRISMAガイドラインに沿って98の文献を抽出した。
多くの研究はソーシャルメディアの中でもFacebookや、ブログ、Twitter、Youtubeの利用に関するものであり、トピックとしてはセクシュアルヘルスや糖尿病、インフルエンザ、メンタルヘルスがほとんどであった。

バイアスツール/質尺度の利用可能な方法論から、Downs and Black Instrumentが量的研究の質を評価するツールとして推奨されている。
質的研究に対する標準化された尺度は無いので、量的研究のみ(量と質のミックスを含む)評価した。
Downs and Black instrumentでは最高得点が32点になるが、本研究で対象となった研究の得点は3点から22点であった。全体的に得点が低かったのは、主に探索的研究と記述的研究が占め、介入研究が3つ、RCTが1つだったためである。
抽出した98の研究のうち40が量的、48が質的、10がミックスであった。


研究に見られるソーシャルメディア利用者は多岐にわたるが、年齢では11歳から34歳が多く報告されている。また、SNSは男性より女性が多く利用しているとする研究もある。
少数の研究が、ソーシャルメディアの利用者は所得が低いとしている。アメリカの研究では白人より黒人の方が利用していることを報告している。Chouらは人口集団は教育や人種/民族に関係なくソーシャルメディアにアクセスしていると結論づけている。


抽出した研究からヘルスコミュニケーションにおけるソーシャルメディア利用の主な7つ
・様々な症状に関する情報を提供すること
・医学的質問への答えを提供すること
・患者同士、患者と専門家の対話を促進すること
・患者の経験や意見に関するデータを集めること
・介入やヘルスプロモーション、健康教育に使われること
・スティグマを減らすこと
・オンライン相談を提供すること

ヘルスコミュニケーションにおけるソーシャルメディアに共通する(overarch)6つの利点
・他者との交流の増加
・より多く利用可能で、共有可能な自分に合った情報
・アクセシビリティの増加とアクセスの拡大
・ピア/社会的/情緒的サポート
・公衆衛生におけるサーベイランス
・健康政策への影響をもたらす可能性

ヘルスコミュニケーションにおけるソーシャルメディアの12の制限

・情報の信頼性の欠如
・情報の質の問題
・秘密性とプライバシーの欠如
・ネット上に個人情報を開示することへのリスク認識の不足
・不適切なアドバイスやコミュニケーションへのリスク
・情報過多
・自分の状況に合わせて適切に情報を利用できないこと
・特定のソーシャルメディアが他の物より行動変容により効果的かもしれない(?)
・健康に対する悪影響
・健康に対するリスク行動
・患者が専門家のもとへ訪れることを妨げるかもしれない
・専門家が患者との交流のために利用していないかもしれない

一般の人はソーシャルメディアを主に自分自身や、家族、友達のために利用し、健康問題に対する情報を得たり共有しようとする。患者は自身の経験を共有したり、オンライン相談に使うことができる。専門家の中には患者に関するデータを得たり、オンライン相談に応じるために利用する人もいる。
しかしながら、現段階での利用には制限がある。カナダの保健医療に関する女性専門家はWeb2.0が知識提供に有効的だろうと見ているが、扱う時間や技術的なスキル不足のために制限があるとしている。自己呈示や同時生の対面あるコミュニケーションへの親密性を向上させる今後の研究が専門家と患者のコミュニケーションを向上させるだろう。
他の研究では、オンラインの議論における専門家の知識共有行動を理解するためにソーシャルネットワーク分析を用いて、専門職間、組織間のつながりが強いことを明らかにした。
今後の技術発展は将来の保健医療の場でソーシャルメディアを利用する機会を増やす。だが、保健医療提供におけるソーシャルメディア利用の用途を最大にするためのトレーニングを患者にも提供者にも必要とする。


ヘルスコミュニケーションにおけるソーシャルメディアの役割を決めるためにも、より大きなサンプルサイズ、剛健な方法論が必要とされる。
ヘルスコミュニケーションに対するソーシャルメディアの研究の不足点と指針
・特定の集団におけるソーシャルメディアの影響
⇒十分なサンプルサイズを用いての評価が必要
・異なるソーシャルメディアアプリケーションの相対的な有効性
RCTを用いての評価が必要
・ソーシャルメディアの持つ有効性への長期的な影響
⇒縦断研究を用いての評価が必要
・ソーシャルメディア利用によるヘルスコミュニケーションの質と信頼性を観察し、
高めるために一番適した潜在的なメカニズム
  ⇒実際にソーシャルメディアを用いての調査が必要
・オンラインの情報共有リスク、秘密性とプライバシーに対する影響、秘密性とプラ
イバシーを維持したまま利用者を効果的に教育するために最も適したメカニズム
  ⇒メカニズムの発展と相まってリスクと影響の調査が必要
・患者と専門家の関係を効果的に支えるソーシャルメディアの潜在的可能性
⇒支えるためにどのように利用できるかを評価することが必要
・コミュニケーションを高めるためのピアトゥーピアサポートの影響

⇒ピアサポートの影響を評価することが必要


以上、こんな内容でしたが、、、訳が全然できません(苦笑)。
英語の勉強もしなければなりません。
間違っている、または分かりにくい場所については誰か教えていただけるとありがたいです。
あと、単に訳すよりはもう少し、重要と感じたとこにしぼって書いてみた方が振り返った時に分かりやすいかもしれません。

この文献からも、データベースで検索するだけでも分かるのですが、やはりRCTのような介入研究は多くありません。なぜでしょう。まだまだ新しい領域(実際に、今回レビューした文献もほとんどがここ2年間のものだったと記述がある)ので研究デザインなどが難しいのでしょうか。

保健医療でのソーシャルメディアの利用による知識共有、様々なものの見方、自分に必要な適切な情報の探し方、選択する力(まとめて言えばヘルスリテラシー?)が得られると感じていますが、その理想の仮説の前に(それを検証するためにも)もっと明らかにしなければいけないことが多くありそう、、、
とかいろいろ考えてるうちに煮詰まってきました(笑)。

システマティックレビューを読んで整理するはずだったんですが、まだまだ実際にどのような研究が行われているかを知らないので考えが現実的に進まないのでしょう。
やはり、この夏休みはどんどん論文を読んでいきます。



[1]Moorhead SA, Hazlett DE, Harrison L, Carroll JK, Irwin A, Hoving C

A New Dimension of Health Care: Systematic Review of the Uses, Benefits, and Limitations of Social Media for Health Communication. J Med Internet Res 2013 Apr; 15(4):e85

2013年6月25日火曜日

Health2.0 and Medicine2.0



Health2.0とMedicine2.0の定義についてのメモです。

今週の看護情報学特論でこのHealth2.0とMedicine2.0についてプレゼンをしようと考えていたので、

以前、流し読みをしたDefinition of Health 2.0 and Medicine 2.0: A Systematic Review[1]を改めて読んでみました。

ただし、この領域は成長が著しく最新の情報を得ていくためにはもっと英語圏のブログを読み込む必要がありそうです。



以下、概要


2004年にティム・オライリーによってWeb2.0という概念を

ユーザー参加、開放性、ネットワーク効果によって特徴づけられる、より進歩した独特の
メディアである次世代インターネットを集合的に築く経済的、社会的、および技術的潮流の統合

として提唱した。

Web2.0の定義についても様々な見解があるが、Web1.0(第一世代インターネット)とこのWeb2.0の主な違いは、Web1.0の情報の流れが一方通行だったのに対し、Web2.0ではユーザー自身が情報を発せられるようになり、相互作用的になったところにある。
ただし、Web2.0がHTML言語のように既存の技術を基にしていることから、新世代インターネットではないという人もいる。


このWeb2.0の技術が保健医療の現場に持ち込まれるとHealth2.0が使われ、同様にmedicineとWeb2.0を掛け合わせたMedicine2.0を使う人もいる。
このHealth2.0やMedicine2.0には、例えばPatientslikemeやHello Healthがある。
たいていHealth2.0とMedicine2.0には実際には大きな違いは無いとされる。



この領域における今後の取り組みや研究のために定義を明らかにしようとしたところ、46の記述からよく挙げられる7つの話題を取り上げた。

その7つが以下である。

・患者と消費者 Patients and Consumers
・Web2.0/Technology
・医療者、専門家 Proffesionals
・ソーシャルネットワーク Social Netwoking
・保健医療提供の変革 Change of Health Care
・協同 Collaboration
・健康医療情報またはコンテンツ Health information or Content



Web2.0という言葉は頻繁に取り上げられ、33人の著者が定義の中で直接その言葉を用いており、Web2.0という考えを受容していることが分かる。一方、他の著者はWeb2.0は全く存在しないと述べている。Web2.0に対する著者の解釈はHealth2.0/Medicine2.0の定義に深く関わっている。

研究者たちはWeb2.0の意味を広く2つに分けた。
一つ目に、Web2.0とは技術発展の統合もしくは“mashing(マッシュアップのことか?)”である。
二つ目に、Web2.0とは人々にエンパワメントをもたらすユーザー生成コンテンツを持った、相互作用が重要となる新世代インターネットである。この二つ目の解釈においては技術やmashingはツールに過ぎず、Web2.0とは技術以上のことを意味する。
この二つの意味がHealth2.0/Medicine2.0に異なる意味をもたらす。
多くの定義が保健医療の提供における技術発展について言及する一方で、他の定義はHealth2.0/Medicine2.0とは保健医療の提供における新世代であると述べる。また、多くの定義が患者と医療者の関係に焦点を当てている。

Health2.0/Medicine2.0によって患者はソーシャルネットワークの利用や医療情報へのアクセスによって医療の場における役割を変えながら医療者と協同するとされている。


最後に、Health2.0/Medicine2.0は保健医療提供を変えると考えられている。だがEngelenによれば保健医療提供の根本的な変革はいまだ起きていない。



一般的にHealth2.0/Medicine2.0の定義は定義する者自身の視点によって行われており、このことは異なるステークホルダーのアジェンダによって定義は影響を受けうるということである。

それゆえ、今後の研究者は全てのステークホルダーを取り込み、それによって可能な見方や視点を含むことが重要である。




以上、こんな内容でした。

Limitationsの所では、今回の研究にあたってインターネット上の灰色文献gray literatureを多く扱ったところ指摘していましたが、そこに触れずしてHealth2.0/Medicine2.0について考察することはまず不可能でしょう。
厳しい審査がある科学的な論文と違って、ブログにはその人のモラルに頼る以上の制約が無いのは事実ですが、今や知見に富んだブログも多く存在しています。
結局論文にしても、ブログにしてもクリティカルに読むということに変わりありません。
Health2.0による患者、消費者の自主(積極)的な保健医療への参加や関わり、また患者や消費者同士のつながりがヘルスリテラシーを向上させるようなものになるのか今後も追っていこうと思います。


[1]Belt THVD, Engelen LJLPG, Berben SAA, Schoonhoven L. Definition of Health 2.0 and Medicine 2.0: A Systematic Review. J Med Internet Res 2010;12(2):e18

2013年6月20日木曜日

看護情報学特論メモ

先週で看護情報学特論の先生による講義が終わり今日からは学生のプレゼンです。
先週までのとこを少し振り返ってみます。

●保健医療における三つのコミュニケーション

医療者-医療者
医療者-消費者
消費者-消費者

研究を行ううえでも自分がどこに関心があるのかをはっきりとさせる必要がある。
私は医療者-消費者、消費者-消費者か。

●意思決定について
・医療選択における意思決定支援が重要となってきているが、 
意思決定がうまくできた人は余後がよい。
意思決定支援の研究に関しては乳がんの研究が多くある。
その理由としては、数がおおいことや、急性のものに比べて時間がとれる、治療選択がある程度決まっているということがある。
・流行のアマゾンの1クリックで買い物できるというのは合理的意思決定が働いていない。
・リスクコミュニケーション
・ベイズ統計 事前確立をかける
・医療者はコミュニケーションにおいて上手く伝えるための鉄板方法があると思い込んでいたりするが、コミュニケーションは多様な人と多様な人の掛け合わせである。
・講義の一番前でうなずいている人ほど学習理解が伴っていなかったりするのは、批判的な見方や考え方が欠けているから()
・エビデンスは個別性に欠けているのか?
エビデンスは多数から出てくるものであるが、そのエビデンスを使って個人が考えることができるものである。その意味ではエビデンスとは個別性適応するものと言える。
・ランダムに起こる事象からたまたま何かが続くとそれを信じてしまう。
例、1/2の確率のギャンブルを始めたら勝ち続けた人は自分が強いと考えがち。実際には単なるビギナーズラック。実証するにはexcel関数で0、1をランダムに出すと分かりやすい。
・可能性のある選択肢を悪いとこばかり見てつぶさないのが大事
メリット、デメリットを挙げる
この場合これがいいとか悪いとか考えない
・生存率は99%という場合と、死亡率は1%という場合では、意志決定の結果が違ってくる可能性
→どちらも言うべきだという考えがある
・社会調査での質問方法など
例、あなたは安倍内閣を支持しますか、支持しませんか。


●Social media
・キュレーションとは?
自分に合った情報を取り出すことができる。情報と人を結び、さらに人と人のつながりをも生む。キュレーションのサービスとしてはGunosyなどがある。Content Management System。
facebookなどはその人がどのような過去を持つかがわかる。つまり相手の文化を知ることができる。
・アーカイブスの重要性。民主制。今後私たちが死んだ後のfacbookはどう残るのだろうか。
現在、死んだ後にメッセージを送るソーシャルメディアも出ている。
lay knowledge
lay epidemiology
・情報からものをみることで、思考様式が変わっていくこと「情報学的転回」(西垣,2006
1患者1カルテ。電子カルテは患者に見えることが必要。他職種の人が自分のカルテに記述を行っているのを見えることが患者の満足につながる=患者のための電子カルテ化。現在は医療者のための電子化。海外では患者ポータルなどがある。
・ICTを使った障がい者からチャレンジドへ!プロップステーション



●ヘルスリテラシー、SOCなど
・ヘルスリテラシーの向上方法はあるのか?
ほとんどエビデンスは無い。唯一言えるのが参加型プログラム。
Nutbeam,2000の論文は読まれてるランキングがずっと1
・アドボカシー→代弁する(ここに情報を得られず、健康になれない人がいますよ!)
・相対的貧困 所得50%以下の家庭 日本では15%位 先進国の中では高め
この15%のうち50%は母子家庭が占めている
・健康生成論  疾病 ←リスクファクター サルタリーファクター→ 健康
・Sense of coherence 首尾一貫感覚
1)わかる 2)できる 3)やるぞ (蛯名先生)
distress eustress 
・ラザルスのストレス評価 1)ストレスかどうか2)対処可能か3)意味づけ
・SOCを上げるような介入=病気になってよかったといようなポジティブな考えを看護介入において成し遂げる
・Benefit finding 
RCTを行い一方は毎日普通に日記つけてもらう、もう一方は毎日何かいいことを見つけて書いてもらう。後者のほうが回復は早いという研究。
・ヘルスリテラシーは社会関係資本ソーシャルキャピタルの資源と言われている。
・健康や疾病という刺激に対してどう反応するか⇒学習に通ずる。


まだまだありますが、今から特論が始まるのでざっとメモです。
また整理して書ければいいと思います。
このスライドは研究室のページにあります(中山研究室)。