2013年10月19日土曜日

HLS-EU-Qの開発プロセス

European Health Literacy Survey(EUの8カ国による調査)の際に開発された尺度、HLS-EU-Qの尺度開発の文献[1]が出ていました(先生からのアナウンスで知ったのですが)。
文献はこちら
授業でもこの文献を取り上げて勉強していますのメモします。
尺度開発の勉強になりますが、まだまだ知識不足、英語力不足、そもそも勉強不足を痛感しております。



■背景
導入冒頭ではNutbeam先生の定義(2000)を取り上げ、ヘルスリテラシーのへの関心の高まり、そして尺度への関心の高まりを述べています。

続いて既存のヘルスリテラシーの尺度を取り上げています。その上で既存の尺度の大きな欠点として次のように上げています。
ヘルスリテラシーに関連する側面を捉えられていないこと、概念の限られた要素にしか焦点が当たっていないこと、集団としての側面を除いて個人の特性に焦点を当てていること、定義と概念位対してあいまいな関係であること、ヘルスリテラシーによる因果関係に弱い関係しか示していないこと(Jordan, Osborne, and Buchbinder, 2011)。

そしてヘルスリテラシーの包括的な測定は次の属性を反映すべきとしています。
検証可能な理論や概念枠組みに明確に基づく;複合的な概念領域や実際的な構成要素を持つ構成概念としてのヘルスリテラシーの理論を反映するために、内容や方法論において多次元的である;複合的な方法を使う;コミュニケーションとヘルスリテラシーを明確に区別する;測定は根底的な理論や概念枠組みによって描かれる概念領域からサンプリングされた多数の項目を含むべきであるという理解のもと、ヘルスリテラシーを潜在的な構成概念として扱う;公衆衛生的(public health)な行動やアウトカムを研究するために、測定は臨床場面に特化すべきでないという理解のもと、適合性の原理を守る;文化、人生、人口集団、研究場面を含む文脈において比較を可能にし、等しくある;社会研究や公衆衛生への利用を臨床場面に対して優先させる(Pleasant, McKinney, and Rikard, 2011)。

HLS-EU-QはこのPleasant先生らの原理を用い、そしてこのブログでも何度か取り上げたSorensen先生らが開発した定義と概念モデルによって開発を進めています。

・目的
人口集団におけるヘルスリテラシーの概念に基づく多元的、多国的、学際的、包括的測定を目的として、ツールの項目開発、プリテスト、フィールドテスト、外部コンサルテーション、言語のチェック、尺度翻訳に関して行われた構造的で体系的なアプローチの詳細なアウトラインの呈示。
それによりHLS-EU-Qをデザインすること大規模な発展過程に対する洞察を提供し、後の利用や承認に対して有効的にする。
―開発過程における実施された各段階に対する方法の説明
―その次に各段階に対する結果
―最終的に、開発過程とHLS-EU-Qの属性を本質と制限という点から議論


■方法
・Applying a concept validation approach
Pleasant et al.(2011)の原理に沿って、HLS-EU-Qの開発は概念妥当性アプローチ(concept validation approach) に従う。
デザイン過程はSorensenら(2012)のヘルスリテラシーの定義と概念モデルに基づく。
Questionnaire development 
概念モデルから始まり、論理的で体系的かつ構造化された開発過程を経て、定量的方法に加え定性的方法を含む次の8つの段階を含む(おそらく上の「Applying a concept validation approach」が1つ目の段階に含まれます。): 

・Item generation
項目を開発するためにデルファイ法を利用。

・Focus groups
表面的妥当性の検証
―参加者と各グループによる質問紙のデザイン、明瞭性、内容に関するフィードバック。
―便宜的サンプリングにより実施。一般的な市民スキルに加え健康や、さらにはヘルスリテラ
  シーに関する知識を持った参加者―参加している3つの大学からスタッフと生徒を含む。
・Pretesting
フォーカスグループにより修正したものを二カ国(アイルランドとオランダ)でフィールドテスト。
各国で50のコンピューター補助による対面インタビュー。
有意選出法 により実施。
不適正な手続きがあった1インタビューを除き上99のインタビュー。
インタビューの所要時間としては25分~90分。

データ分析に関する方法論的アプローチ
―質的分析…ログブックと観察によるデータとコメントやフィードバックの吟味
―量的分析…項目分析、主成分分析、信頼性分析

項目分析→弁別力の低い項目を除外するために各項目に対する反応分布の吟味(同カテゴ
        リーにおける95%以上かそれ以上の解答)。
主成分分析→各領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)に対して個別に分析。
      情報の4つのプロセス次元に関する4つに収斂した成分の数を持つ。
      バリマックス回転の実施。
      因子構造の検討とPCAの反復。
PCAによって得られたスケールの内部一貫性はクロンバックのαによって検証 

・Expert consultation
質問紙の技術的特性(スケーリング、項目のオーダリング等)に加え構成概念妥当性を評価するために、健康やヘルスリテラシーの専門家によるコンサルテーション。

・Finalisation of the questionnaire
具体的知識に関する質問のような客観的な質問項目は各国の文化的差異のために除外し自己記録項目へ。
リッカートタイプスケール とても難しいからとても簡単
・Plain language check
リテラシーの専門家による平易言語の検証。

・Translation
二人の独立した翻訳者が質問紙を英語から目的言語に翻訳。
専門家による二つの翻訳の評価。

■結果
・Item generation
初回デルファイ→合計136項目、ほとんどが自己記録陳述で5件法リッカートスケール。
次回デルファイ→43項目
・Focus group 
得られた意見
―構造→質問の順番を情報を扱う能力への焦点から領域への焦点へ、繰り返しの多さ。
―明瞭性→専門家バイアスがある。
―内容→(i)客観的質問や知識質問が難しすぎる。
      (ii)八カ国をカバーするほどの一般性が無い。
      (iii)社会的/文化的に受け入れられる答えを促す、回答者がプライバシー等の意見
       を共有するか、ヘルスリテラシーや社会経済的地位の質問に応じるか。
項目数を47項目へ。
・Field test
―質的分析
 長すぎる、包括的すぎる、繰り返しが多い、言語による専門家バイアス、時間がかかる 。
 似ている質問は統合。 
―量的分析
  項目分析→解答カテゴリで十分な変動(variation)がある、変動の少ない2つは削除。 
  主成分分析→ヘルスケアにおけるヘルスリテラシーを測る自己記録項目に対するPCAは4
          回の反復後、成分に分解され分散の59%。
          同様に疾病予防では分散の64%。
          ヘルスプロモーションでは分散の62%。
  クロンバックα→0.51から0.91。
            項目の少なさに敏感であることを考慮すれば得られた尺度は合理的に等
            質である。

・Expert consultation
得られた意見
(1)マネジメントに関する意思決定のための人の能力を見ることで質問紙の目的に忠実性を保つ。
(2)人々、患者に焦点を当て続ける。
(3)一般的なアプローチを維持する。
(4)デザインがシンプルである。
(5)明確な言葉を用いて専門用語を避ける。
(6)質問紙が簡単である。
・ Finalisation of the questionnaire
最終的に12のサブスケールに対して1スケールおよそ3~5項目を含む47項目の質問紙へ。
・Examination for use of plain language
the National Adult Literacy Agency in Irelandによる検証と修正。
・Translation 
英語をオリジナルとしアイルランドで利用。
ドイツ語はオーストリアでも利用。

■考察・限界
デルファイによって生まれた項目はヘルスプロモーションの領域で少ない。
多くの項目により部分的な合意になった。
フォーカスグループは3カ国、フィールドテストは2カ国のみ。
クロンバックのαに関して低いものがあり今後の研究が必要。
さらに広い代表性が異なる文化圏で質問紙を使うときに有効。
専門用語や根本的なパラダイムを手放す難しさ。
専門的な翻訳がプリテストの段階から行わるるとよい。
質と汎用性を高めるための研究が必要。



授業ではあいまいな理解になっているところをきちんと理解しようとまずconcept validation approachについて考えました。尺度開発の文ではよく見ますがこれはいったいどのようなアプローチなのか説明できなかったからです。
concept validation approachが論文の中でApplying a concept validation approachという見出しになっているようにconcept validation approachについての記述があるところを見なさいという示唆を先生から頂きました。
尺度を開発するにはまず、何を測るのかを明確にしなければなりません。つまり図るものの定義を明らかにするということです。そしてその定義にある概念は何なのか、その概念モデルを考える必要があります。方法の最初にApplying a concept validation approachが来ているように、concept validation approachによってこれから図るものを明らかにすることで、それにもとづき開発が進んでいきます。

次回の授業でも明らかにすべきところ扱うので、そこで学んだことはまた追記か、新しくメモしていきます。

[1]Sorensen K, Van den Broucke S, Jürgen M Pelikan, Fullam J, Doyle G, Slonska Z, Kondilis B, Stoffels V, Osborne RH, Brand H: Measuring health literacy in populations: illuminating the design and development process of the European Health Literacy Survey Questionnaire (HLS-EU-Q). BMC Public Health 2013, 13:948.

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