2013年10月22日火曜日

ヘルスリテラシーと社会的要因の関連性

今回もthe European Health Literacy Survey(HLS-EU)に関する文献からです。
Health literacy of Dutch  adults: a cross sectional survey[1]
論文はこちら


■背景
ヘルスリテラシーの概念への関心は、保健医療の中の市民とヘルスケアが持つ役割と責任に対する強調を伴いながら増してきた(Kickbusch & Nutbeam, 2000; Nutbeam, 2000; Chinn, 2011)
多くの研究によって研究課題としてのヘルスリテラシーの重要性は指摘されており、ヘルスリテラシーは健康の維持や向上に重要な役割を果たし、健康格差の不確実な予測因子になる可能性があると言われている(Rudd, 2007; Lee et al., 2010, Paasche-Orlow et al., 2010)。

・ヘルスリテラシーの定義と範囲の議論
この議論は二つのアプローチに分けられる。
→‘clinical(臨床的)’ approachと‘public(公衆衛生的)’approach
この違いは、保健医療内の患者の能力であるか、患者や医療を超えた(例、職場、政治、家)公共への働きかけによる概念の拡大にある。

ほとんどの研究は臨床的視点に基づいている。
公衆衛生的視点の研究としてHLS-EUsurveyの実施。

・研究目的
ヘルスリテラシーに関して構築されている理論的知識に寄与すること。
それによって一般集団のヘルスリテラシーに対する先見的な洞察を得て、人口統計学特性や社会経済学的特性との関わりを調査する。
人口統計学的特性や社会経済学特性とヘルスリテラシーの関係に対する的確な洞察は、健康状態にリスクを持ちヘルスリテラシーが不十分である立場の弱い(vulnerable)集団を明らかにすることにつながる。


・リサーチクエスチョン
1) 成人は各領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)において、ヘルスリテラシーの能力である健康情報の収集、理解、評価、適応にどの程度難しさを認知しているのか
2) この能力は人口統計学的特性や社会経済学的特性とどの程度関連があるのか。
■方法
・研究デザインとデータ収集
オランダの15歳以上の人に対して層化ランダムサンプリング
―人口数と密度に比例した包含確率(a probability of inclusion)にするために、都市部と田
  舎に応じ た州内部と州での層化

家庭はエリア内でランダムに選択され、電話やメールによって各家庭から1人をバースデイルール(家族の中の15歳以上の人で誕生月が早い人が対象となるものでしょうか)のようなものでリクルート。
2011年の7月にリクルートされた人に対面で質問紙を渡し実施。2817人のうち、1794人は参加意思がなく1023人(36%)が対象となった。25歳以上の人だと収入や教育、社会的地位に関して回答が安定することから分析対象を25歳以上とし、最終的に925人の成人が対象となった。

・変数の評価
ヘルスリテラシー
前回のエントリで取り上げた尺度開発の概要なので詳細は割愛しますが、引用文献にThe development and validation of the European health literacy survey(hls-eu)[2]という論文が挙げられていました。アブストを読む限り前回エントリの尺度開発の文献と似た内容ですが、以前から尺度開発の論文が出ているとは知りませんでした。すぐに読みたいと思います。

質問項目47項目:
(a)情報の収集能力に関する(13項目)
(b)情報の理解能力に関する(11項目)
(c)情報の評価能力に関する(12項目)
(d)情報の適応能力に関する(11項目)

回答カテゴリは4件法のリッカートスケール:
1=とても難しい(very difficalt)
2=まあ難しい(fairly difficult)
3=まあ簡単(fairly easy)
4=とても簡単(very easy)
“分からない”という選択肢は与えなかったが、回答者がそのように答えた時に使われ、欠損値として記録。

得られた回答は能力ごとに合計し、非常に難しいと感じている人とあまり難しいと感じていない人に分けた。4つ全ての能力で得点が最も低い回答者(収集、理解、評価、適応に対して第一四分位数より低い人)は非常に難しいと感じていると分類し、得点が最も高い回答者(第三四分位数より高い人)はあまり難しいと感じていない人とみなした。
これと同じことを全ての領域としてだけでなく、各領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)ごとにも行った。

人口統計学的、社会経済学的特徴
以下の人口統計学的特性や社会経済学的特性を分析:

年齢→連続変数
教育水準→1)教育無し、または初等教育、2)中学校教育、3)高等学校教育、または中等教育(中学・高校教育)を受けた後、高等教育(大学)を受けていない(専門学校の人などが当てはまる)、4)大学教育以上
一ヶ月の世帯所得→10点満点スケール 分析においては四分位数:1)1850ユーロ(日本円で25万円弱位?)より低い、2)1850-2400ユーロ、3)2400-3600ユーロ、4)3600ユーロ以上で記録
社会的地位→社会的地位の認知(自己記録による変数) 1(最も低い社会階層)-10(最も高い社会層)の間で選択。低い(1-4)、中間(5、6)、高い(7-10)の連続変数

・統計解析
質問紙の信頼性と内部一貫性を検証するためにプロマックス回転を用いた主成分分析(論文にこのデータは載っていません)を行い、クロンバックのαを計算。
質問項目(収集、理解、評価、適応)の内部一貫性は十分であった(それぞれのクロンバックのα=0.84, 0.83, 0.85, 0.87)
※ただし、この後の結果を示す表を見ると収集能力に関する質問が13から11に、適応能力に関する質問が11から9に減っているので、内部一貫性を高めるために削除したと考えられます。

因子分析の結果、定義した領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)に従って、収集、理解、適応の能力に対するヘルスケア因子、疾病予防因子、ヘルスプロモーション因子に分けられた。
評価能力に関しては、因子分析では2つの因子を特定し、それらを‘ヘルスケアと疾病予防’、‘ヘルスプロモーション’とラベル化し、ヘルスケアと疾病予防におけるヘルスリテラシー測定のためにデザインした項目を結合した。

合計得点と各項目の平均値による記述統計は最初のリサーチクエスチョンの答えになる。
2つ目のリサーチクエスチョンに答えるためにヘルスリテラシーと人口統計学的、社会経済学的特性の関係に関して多重回帰分析を実施した。

欠損地
欠損地に対して、多重代入法MICE(Multiple imputations by Chained Equations)を用いるが、完全にMAR(missing at random:ランダムに起こる欠損値で、欠損する値の大きさ自体はランダムで、欠損が起こることは他の変数で影響を受けているもの)というわけではない。
全体の分析の結果を得るためにRubine's ruleに従う(Van Buuren, 2012)
これはバイアスが少なく、欠損値を扱う最新の方法とされている。

■結果と考察
結果に関しては記述するより表を見たほうが早いので…
Table4 Descriptive statistics per health literacy competence and domain(N=925)[1]

各領域の項目の平均値はおよそ3(easy)に近いです。結構高いですね。
一番低いのがAccessのヘルスプロモーションで2.6です。ヘルスケアや疾病予防より低くなるのは感覚的に分かる気がします。
逆に一番高いのはUndestandingの疾病予防とApplyingのヘルスケアで3.6です。疾病予防の情報が理解できるということ、医療場面において情報を適応できるということです。後者に関してはこんなに高いのかと感じましたが、質問紙の方で質問を確認してみると病状に関する医師からの説明を意思決定に使えるか、処方箋に関する指示に従う、緊急時に救急車を呼ぶ、医師や薬剤師に従うといった明確で分かりやすい質問であることを反映している気がします。

ヘルスリテラシーと人口統計学的、社会経済学的特性の多重回帰分析の結果についても…
Table5 Associations between socio-economic and demographic characteristics and healrh literacy competences[1]

ちなみに2変数の単回帰では一貫した関連はなかったようです。
多重回帰(Table5)で見ると、いくつか関連が見られます。
全体を見渡すと、ヘルスケアと疾病予防における人口統計学的、社会経済学的特性とヘルスリテラシーの関連性は似ている気がしますが、ヘルスプロモーションでは全く違った関連性を表しているように見えます。

ヘルスケアに関して表を横に見れば、教育はAppraising以外で、社会的地位は全てに関連性があります。
疾病予防ではAccessing、Understandingにおいて全く同じ関連性です。教育、所得、社会的地位、年齢、性です。

ヘルスプロモーションでは社会的位地位や年齢が多く関連しています。

見ていて思うことは情報が多く一つ一つ解釈するのが難しいです。
ヘルスケアと疾病予防において年齢が上がると難しさが増加していることから、これはパソコン媒体の利用を反映してるのかなと思いましたが(高齢者の方が利用へのハードルが高いと考えられる)、ヘルスプロモーションの所では逆の結果になっています。

これらの解釈を進めていくためにも今後はもっと質問項目を吟味していく必要がありそです。

性に関して見ると、ヘルスケアと疾病予防の領域において女性の方が男性より情報に対する難しさを感じていないようです。

■限界
今後の研究ではさらにモチベーション等の変数が必要になる。
高齢者の対象者が多いように国のサンプルの代表性を確保していない。だが実際には大きくアウトカムには影響していないようである。
etc.



先ほども述べましたが、今後結果の解釈をもう少し吟味していくためにやはり質問項目の検討を進めたいと思います。
特にヘルスプロモーションの領域におけるヘルスリテラシーとの関連性は今まで無かった取り組みなので気になるところではあります。
そういえばHLS-EU-Qには47項目版に加え、16項目版と86項目版もあるようでそこら辺の文献もあれば読みたい所です。
追記H25/12/4→86項目版とはヘルスリテラシー項目47項目と社会的要因39項目(NVSを含む)のことで、今回の研究ではそ47項目とその一部または86項目版を利用しているようです。

[1]van der Heide et al.: Health literacy of Dutch adults: a cross sectional survey. BMC
  Public Health 2013 13:179.
[2]Fullam J, Doyle G, Sorensen K, Van den Broucke S, Kondilis B: The development
  and validation   of the European health literacy survey (hls. eu). Ir J Med Sci 2011,
  108:225–226.



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