2013年10月27日日曜日

第72回日本公衆衛生学会① ~Kawachi先生講演~

10月23日から25日まで三重県で開催された公衆衛生学会に参加してきました。
その一部(Kawachi先生による講演の)メモです。



参加にあたって最初の注目はやはり、Harvard School of Public HealthのIchiro Kawachi先生による基調講演です。
先生の本や文献は読んだことがありましたが、実際に公演を見るのは初めてなので楽しみにしておりました。

いざ会場へ行くと大ホールにはすでに人であふれており、さすがKawachi先生です。
話は健康の社会的決定要因のお話です。
社会的決定要因については日本でもかなり議論されるようになってきたと思います。
今回の公衆衛生学会でもテーマとして様々な所で取り上げられていました。

その社会的決定要因について先生は行動経済学の観点からのお話をされていました。
導入としてアメリカの肥満の話から入り、いくつかの研究とともに紹介されました。
特に面白かったのはその中の一つ、映画館でポップコーンを使った研究のです。

映画館で映画を見る人に対してランダムに小さいカップに入ったポップコーンと大きいカップに入ったまずいポップコーンを二つのグループを作ります。
ここで重要なのはまずいという所でしょう。単純に考えて、それが美味しかったらあるだけ食べてしまうと考えられますが、まずいということはカップのサイズに関わらずどちらのグループも同量食べて後は残すと考えられます。もちろん個人差はあれどグループとして見たときにそうなるだろうということです。
結果は大きいカップに入ったまずいポップコーンを渡された人のほうが小さいカップに入ったまずいポップコーンを渡された人と比べて明らかに多くそれを食べていたということです。
つまりここから言えることは、私たちは、目の前にあるものを食べてしまうということです。
どれ位の量を食べようかという私たちの意思決定は与えられたポップコーンの量に依存しているのです。

研究者としてこれに興味があるのであればちゃんと文献を確認すべきだと思いますが、このような話は様々な事例で報告されているのである程度のエビデンスは蓄積しているのではないでしょうか。また、個人的に行動経済学的な話に興味がある方にはTEDのDan Arielyの公演を見ることをおすすめします。

先生は、このような観点は政策を考えるのに必要であるとし、人の関心に関する研究も紹介されていました。募金を促すのに、人の顔が見えるポスターというのは、実際の難民の数などの数値が事細かに入った説明書きより明らかに有効だというものです。面白いのは二つの合体よりも顔だけの方が有効だということです。なぜでしょう。感情と論理では感情が重要となる場面があるということです。
日本の公衆衛生学的なアプローチはそういった点はなかなか考えてきませんでした。
それでも少しずつソーシャル・マーケティングといった考えも出てきて、今後もっと積極的になることに期待したいです。

話の最後は早期教育の重要性についてウォルター・ミシェル先生のマシュマロテストについて取り上げお話されました。
このテストで我慢できる子は14年後の対処能力や学力と相関があったのです。
他にもペリープログラムなどを挙げ、早期教育によって身につく忍耐力は将来の健康行動につながるとのことです。
コストという面で見ると、確かに初期投資が大きくなるのですがその後の社会にかかる費用が抑えられ結果的には利益になるとされています。
この点についてはノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者であるジェームス・ヘックマンの論文もあります。



以上がKawachi先生のお話でしたが、先生のお話は学際的でとても面白いです。
日本では学際的という言葉を使いながらも実際は独立しているということが多くあります。
公衆衛生学というすでに広い学問のはずの中でもやはり相互作用が起こりにくということを感じます。
そういえば以前、研究会の輪読でシステムに関する話を扱ったのですが、システムの定義に相互依存や相互作用といった言葉がありました。
その意味では公衆衛生学に限らず日本の学問はまだシステムとしての体系になれていないのかもしれません。

書き足しでもう一つ、今年の11月からKawachi先生のオンラインコースが無料で受けられるそうです。edXのこちらで受けられるようです。
これはぜひ受けてみたいと思います。

本当は学会参加報告で1つのエントリを書こうと思っていたのですがKawachi先生の話だけで書きたいことがどんどん増えてしまったので、また別に学会についてのエントリを書きたいと思います。

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