2013年6月8日土曜日

eヘルスリテラシー

6月5日のゼミにおいて研究発表を行いました。


今後研究を行って行くにあたり、自分の興味はどう形成されてきたのか。
学部時代の関心領域として、行動変容、健康情報、ヘルスコミュニケーション、ヘルスリテラシー、ソーシャルネットワークなどがあり、修士を考える頃からICT(特にソーシャルメディア)が出てくる。
修士になってからは、行動変容というより意思決定、ソーシャルラーニング、情報の提供ではなく共有、加えて学習理論も重要になる。

一方的な専門家から消費者への情報提供ではなく、ソーシャルメディアによる人のつながりを利用した双方的な情報共有。
単に情報提供を変えるのではなく、私たち市民の学びの促進、ヘルスリテラシーの向上。
ではヘルスリテラシーを向上させるには?
消費者のオンラインでの学びの可能性。ソーシャルラーニング。


スライド共有サイトであるSlideShareにアップロードされたスライドSocial Media for Social Learning on Health and Medicine: eHealth Literacy and Navigating the Web for Wellbeing を見て面白いなと思いました。ヘルスリテラシーのことはよく耳にしますが、eヘルスリテラシーなるものが出ていたとは知らずまだまだ無知です。
そこで今回はこのスライド作成者であり、eヘルスリテラシーを提唱したカナダのトロント大学の先生であるCameron D. Normanさんの論文を読んだものを発表しました。

 
eHealth Literacy: Essential Skills for Consumer Health in a Networked World[1]           eヘルスリテラシーとは電子媒体(インターネット)から健康情報を探し出し、内容を理解し、評価して、それを健康課題へ取り組み解決するために用いる能力である。
eヘルスリテラシーは伝統的リテラシー、情報リテラシー、メディアリテラシー、ヘルスリテラシー、コンピューターリテラシー、科学リテラシーの6つからなる。

これをNormanはLily Modelとして花に例えている。
6つのリテラシーが花びらで、eヘルスリテラシーが雌しべにあたる。

また、伝統的リテラシー、情報リテラシー、メディアリテラシーの3つを広く情報の質を評価する分析的モデル、ヘルスリテラシー、コンピューターリテラシー、科学リテラシーの3つを状況に応じた特異的モデルとしている。

 
eHEALS: The eHealth Literacy Scale[2]
eヘルスリテラシーを測る尺度としてeHEALSを開発し、その妥当性と信頼性を測定する。
対象はカナダの学生664名で、自記式質問紙調査による縦断的調査を実施。
結果は、因子分析によって1因子構造であること、内的整合性は妥当な値であること、再テスト法による尺度得点の相関係数は適当な値が得られた。



eHealth Literacy2.0: Problems and Opportunities With an Evolving Concept[3]
eHEALSへの妥当性が懸念されている。
eHEALSはバンデューラの自己効力感に基づいて開発された自記式ツールなので、もっと客観性のある尺度が必要とされる。
eHEALSが開発されたのは2006年次であり、当時はソーシャルメディアのようなWeb2.0的な考えが浸透していなかったので、このeHEALSはWeb1.0的な能力しか測れていない。


実はこの点はすでに当時早稲田の博士課程であった光武さんらによって明らかにされていました(文献:eヘルスリテラシーの概念整理と関連研究の動向)
光武さんらはeHEALSの日本語版開発も行っており大変勉強になりました。


ゼミでのディスカッションとしては、自記式ツールではない尺度の開発とはどのようなものがあるのかということが出ました。
バイオロジーの領域では客観的なデータを得られやすいが、ヘルスリテラシーなど人の能力?といったところの客観性を測るのは難しいのではないのか。
しかし、先生からのご指摘があったように、テストを実際にするというのが非常にわかりやすい例です。例えば、ネット上で実際に情報を見つけてもらうといったテストです。こういったヘルスリテラシーに関するテストについてもどのようなものがあるのか調べてみるのは面白そうです。

またヘルスリテラシーとeヘルスリテラシーの関係性も話題にあがりました。
eヘルスリテラシーはヘルスリテラシーに含まれているのではないのか。
あえて分けることの利点はどこにあるのか。
ヘルスリテラシーとeヘルスリテラシーの分けることへのメリットとしては、ヘルスリテラシーの概念の膨張を防ぐことができると言えます。
何でもかんでもヘルスリテラシーという言葉で説明しようとすれば、結局ヘルスリテラシーは何なのかあいまいになり、広大な概念を測定できるのかという問題も起こってくるかもしれません。

加えて、eヘルスリテラシーの開発された当時の時代背景というのも考慮して考える必要があると言えます。
ヘルスリテラシーの第一人者とも言えるNutbeam(2000年からHealth promotion internationalにおいてHealth literacy forumの開設[4])がヘルスリテラシーについて取り上げたあと、インターネットはどんどん発展しました。
そこでインターネットにおけるヘルスリテラシーの重要性に着目したのがNormanです。それでも当時はまだソーシャルメディアのようなWeb2.0的なところは広く一般に普及はしていませんでした。
そのためeHEALSの開発というのは重要な取り組みであったと思われます。
だが、今、それをそのまま使えるかと言えばそうではありません。
ICTの進歩は驚異的な速さで今もなお進んでいます。
つまりICTに関わる能力を測る尺度というのはそれにともなって常に発展が求められるということです。

この尺度は現代にあってない。
だから新しい尺度が必要である。
これは事実でしょう。しかし同時に、過去に開発された尺度から学ぶことは非常に大きいのも事実です。

まさに温故知新です。


文献
[1] Norman CD, Skinner H. eHealth Literacy: Essential Skills for Consumer Health in a Networked World. J Med Internet Res 2006a; 8: e9.
[2] Norman CD, Skinner H. eHEALS: The eHealth Literacy Scale. J Med Internet Res 2006b; 8: e27
[3] Norman CD. eHealth literacy 2.0: Problems and Opportunities With an Evolving Concept. J Med Internet Res 2011; 13: e125.
[4] Nutbeam, D. / Kickbusch, I. “Advancing health literacy : a global challenge for the 21st century” , Health Promotion International,15(3), 183-184, 2000

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